学校統廃合計画見直し

 京都市が同市東山区の7小中学校を統合して小中一貫校をつくる計画を進める中、建築家や大学教授など30人が22日、学校統廃合計画見直しを求め、アピールを発表。京都市に申し入れました。
 アピールでは、敷地が足りないために校舎が分かれて建設されることや、体育館が地下2階に建設されるなどの問題点を指摘し、学校統合計画の見直しを求めています。
 アピールの全文は以下の通り。

 東山区で5つの小学校と2つの中学校を統合して、施設一体型小中一貫校をつくるという、小・中学校統廃合計画が進められています。なぜこのように子どもに広域通学の負担を強い、地域住民からは学校という地域の核を奪う大規模統廃合をするのか、基本的な疑問があります。しかも、それによって学校施設は、詰め込みとも言える窮屈な施設計画となり、大きな無理が生じているのではないかという疑問を指摘せざるを得ません。

 学校は、子どもたちが社会の未来を想い描くにふさわしい環境や施設空間であることが求められます。子どもは未成年ではあっても大切な市民です。子どもの意見表明権は尊重されなければなりません。今回この計画の中で子どもたちのことはどれくらい考えられ、どのように意見が尊重されたのでしょうか。学校は、子どもたちにとってかけがえのない空間であるとともに、地域社会にとって公共性の高い貴重な共有空間です。市街地におけるゆとりのスペースであり、地域の行事の場、災害時の避難場所として等、地域のコミュニティとは切っても切れない関係を持っています。今回の統廃合は、それを無視したところにまず最大の問題があります。

 コンパクトな生活圏やコミュニティ、貴重な施設のストックを丁寧に維持管理しながら、地球環境にやさしい持続可能な地域社会をつくることが、今求められている重要な課題です。にもかかわらず経済の効率化、管理の効率化から進められるこのたびの学校統廃合は通学圏の広域化、コミュニティ単位の広域化をもたらすだけで、これからの暮らしづくり、地域社会づくりに逆行しているとしか思えません。

I 学区広域化の問題 現在の徒歩圏の学区は、子どもにとって基本的に安全安心な生活圏です。学区広域化は子どもの地域での生活を疎遠にし、安全安心な生活圏でのなにげない見守りが希薄になります。また、通学上の危険性、長距離通学による疲労と生活時間の圧迫が懸念されます。広域通学圏を前提とする計画は、まちづくりにとってもふさわしくないといえます。

II 敷地が分かれ、校舎分散の問題 敷地計画は特に大切ですが、規模に見合った施設一体型の一貫校をつくる計画にふさわしい敷地を探す努力をしたのか疑問です。結局、敷地面積が不足するため、別敷地の六原小学校跡地に、プール、体育館、特別教室などが設けられることになっています。一方で効率的に詰め込みながら、他方では非効率でかつ教育的配慮の無い分散型となり、子どもたちも教職員も二つの施設を行ったりきたりすることになります。校舎が別敷地に分散することは絶対あってはならない計画です。
 六原小学校跡地に建設される施設は開校以降に工事がはじまるため、開校時にはプール、技術室、美術室、図工室がないことになります。

III 詰め込み施設計画の問題  詰め込みともいえる施設計画の問題を見ると、様々な問題点が浮かび上がってきます。
(1) 地下化の問題 地下に施設を押し込んでいることによって、多くの問題点が生じています。

  1. 日照、通風、室内環境だけをとっても、子どもたちの生活空間として不適当なことは論を待たないでしょう。音楽室の楽器音が騒音化します。
  2. グランドの地盤面から約17mの深さにアリーナの基礎があり、大きな土圧(土の圧力)を受けます。学校建築では初めてです。土質の検討や構造計画が構造専門家によって十分におこなわれたのでしょうか。
  3. 1階から地下のアリーナまでの通常の動線(階段利用)を見ると、10mの高低差(普通の建物の3階分に相当)があります。つまり、普通の建物で言えば、1階から4階を上り下りするということです。日常の利用にも、相当の無理が生じることでしょう。地域開放、避難の場としては論外でしょう。
  4. バスケ1面のアリーナでは全校生徒、保護者、先生が一同に入る行事はできません。
  5. アリーナからの避難が心配です。階段を使ってしか避難できないことに重大な問題があります。前述のような高低差があると同時に、沢山の子どもたちが一時に集中する事による、避難時の事故も懸念されます。特に武道館側で火災が生じるとアリーナからの避難は地下中庭への階段1箇所しかありません。
  6. 火気を使用する給食室が地下にあるのも問題です。万一生じた火災が上階に広がらないように万全の対策が求められます。
  7. 施設の中央に地下1階の中庭があります。この部分の雨水や地下の湧水はポンプアップにより排水することになるでしょう。もし、機械排水に支障が生じた場合、雨水の流入により地下1階、2階が浸水する(最悪の場合、水没する)恐れがあります。
  8. 校舎地盤面から約12mの深さまで掘削する計画です。これによる掘削土はざっと42,000立方メートルにもなります。掘削、処分の費用が膨大になるとともに、工事中の土の搬出のための運搬車両による事故や騒音、振動や粉塵などにより近隣住民の日常生活を脅かすおそれがあります。

(2)中廊下型の教室配置の問題 中庭をはさんで両側(南北)に中廊下型の教室配置をしています。これも狭い敷地に将来の児童・生徒増も予定して無理やり押し込んだことが原因で生じた教室配置です。そのための問題点が見られます。

  1. 教室の通風や自然換気が阻害される等、室内環境に問題があります。
  2. 南面する教室と北面する教室ができることで、環境にアンバランスが生じています。
  3. 中庭の日照が阻害されるとともに、そこから上空に伝わる騒音が問題になります。
  4. 中廊下をはさんで対面する教室間の視線や音などへの対策が必要になってくることでしょう。教育環境として問題があります。

(3)うるおい・ゆとりがない  学校として必要なゆとりの空間が確保されていません。校舎をめいっぱい建て、しかもグランドを確保する必要から、敷地内にも、校舎内にもうるおいやゆとりを感じさせる空間がつくられていないのも問題です。

  1. 必要とされる教室をとにかく詰め込むことで(それでも足りない教室があり、別敷地に計画されている)、全くゆとりのない学校になっています。
  2. 子どもの成長にとって必要と思われる、屋外のゆとりとうるおいのある空間がとれるのかどうか大変疑問です。自然の中で季節を感じることのできる植栽や土のある地面など、子どもたちにとっては貴重なスペースとして位置づけたいものです。

(4)一体型施設の問題  小学校には小学校にふさわしい作り方、中学校には中学校にふさわしい作り方が必要です。それを1つの施設に統合しても、このことは尊重されなければなりません。

  1. 6才から15才までの子どもたちが1つの学校で学ぶことになります。心身の発達段階の違いの大きさは、誰にでも想像できることでしょう。それを考慮した建築の作り方があるはずです。それに対してどう対応しようとしているのか、この計画案では全く読みとれません。このままでは、一つにすること自体に無理があると言わざるを得ません。

(5)無駄なエネルギー消費 地下化と中廊下型建築により、照明用電力、換気など゙空調用電力が相当かかります。設備初期投資だけでなくランニングコストもかかり、エネルギーを消費する建築物といえます。

IV 建設方式の問題点 市議会に提案された資料によれば、実施設計と建物施工を一括発注するデザインビルド方式をとることになっています。
 設計と施工は、全く違う職能として位置づけられています。建物は発注者の要求をもとに計画設計され、最終的に実施設計図にまとめられます。実施設計は、建物を細部にわたって詳細に検討してつくられるものです。それをもとに施工者が見積もりをし、適正な価格を算出します。実施設計までは設計者の責任でまとめられ、見積もり以降は施工者の責任の範疇になります。
 デザインビルド方式は、設計と施工の責任の違いを曖昧にするとともに、施工者の判断で設計の意図を曲げてしまうことにつながりかねません。
 子どもたちにとってかけがえのない学びの場である学校は、設計段階でいくら検討しても検討しすぎることはない程重要な施設です。安易な発注方式と言わざるを得ません。

 以上のように、この統廃合計画は様々な問題点を持っています。単なる手直しで済むとは思えません。統廃合計画・施設設計そのものを根本から見直すことが必要ではないでしょうか。

2009年7月
荒木 智(建築家) 稲石勝之(建築家) 片方信也(日本福祉大学教授 建築・都市計画)川本真澄(建築家)清原正人(建築家)蔵田 力(建築家)黒田達雄(建築家)小伊藤直哉(建築家) 桜井郁子(建築家)塩崎賢明(神戸大学教授 建築・都市計画)高橋博久(建築家)竹山清明(京都橘大学教授 建築計画) 谷守正康 (建築家)田村宏明 (建築家)丹原あかね(建築家) 中村 攻(千葉大名誉教授 防犯安全・造園学)中林浩(神戸松蔭女子学院大学教授 都市計画) 成宮範子(建築家)橋本清勇(広島国際大学准教授 建築) 畠山重弘(建築家) 久永雅敏(建築家)久守一敏(建築家) 平塚政己(建築家) 本多昭一(京都府立大学名誉教授 建築)前川亮二(建築家) 松本 滋(兵庫県立大学教授 建築・都市計画)室崎生子(元平安女学院大学教授)目黒悦子(建築家)吉田 剛(建築家)蓮仏 亨(建築家)