湯浅誠氏の講演(5)
 「派遣村」にも、いろんな人々が集まってきまして、行政から紹介されて来た人が結構いました。われわれ、5日までやっていたのは、その日から役所が始まるからで、5日からは役所できちんと受け止めてくださいということだったわけです。しかし、日比谷公園を解散した後、都内4施設の宿泊先に移りました。1週間、そこに私もずっと張り付いていたんですけれど、そこに人がやって来るわけです。住所もなにも報道されていないのに。
 例えば1月6日くらいには、ハローワークへ行ったらここを紹介されたというんです(笑い)。そこへ行けばなんとかなるから、と。ご丁寧に地図まで持たされて(笑い)。そこに新たに宿泊することにはいかないので、別枠で対応しましたけれど、結局、そうやって別枠、別枠で対応する人が結構いっぱいいました。一番ひどかったのは、1月8日だったか、埼玉県のある市の福祉事務所から、わざわざ東京まで人を回してきました。実際にはそういうたらい回しみたいなことが普通に行われているので、生活保護にたどり着けずにもれちゃう人がたくさんいるんですね。
 生活保護を受けている人は今159万人くらいです。それは全体の15%~20%くらいで、600万とか800万とかいう人がそこからもれて、貧困状態に陥っていることになります。この人たちは大変なのですが、大事なのはここからだと私は言っています。労働市場が壊れてセーフティーネットが効かず、人々が貧困に落ちやすいという「滑り台社会」だというのは最近報道でも言われるようになって、それで貧困が広がっているということは言われるようになったんですが、これは、物事の片面にすぎないんです。もう片面というのはまだ十分に見られていないと思います。それは、いったん貧困状態に陥ったこの人たちが生きていくことによって何が起こるのかを考えなきゃいけないということです。
 そういう貧困状態に陥った人の選択肢は、基本的には5つしかないと思っています。
 1つはまず、家族のもとに帰る。「派遣切り」の被害者12万4000人。これからまだどんどん増えていくでしょうが、だいたい8割か9割の人は、寮を追い出されて実家に戻るという選択肢がある場合、そうしているんだと思います。それには普通、「帰れる場所があってよかったね」と言われるんです。そりゃ、ないよりはいい。だけど、話はそこで終わらんぞと思うわけですね。これはもうちょっと考えてみる必要があって、例えば私、今年40歳なんです。フリーター第一世代なんですよ。そうすると、この人たちが大量に切られているとすると、親世代は60、70代。つまり労働市場から撤退しているわけですね。その親世代がどういう生活状況にあるかということを考えると、自分の老後に不安抱えているのが普通ですね。老人の医療負担はどんどん上がっていく、貯金はこれ以上は増えない、年金を十分もらっている人ばかりじゃないですね。不安をかかえているそういう生活の中に、人が1人増える。助かる面もあるでしょうが、やっぱり心配が重なっていくわけです。親ですから、心配なので、どうしても子どもにつらく当たっちゃうわけですね。あんた将来のことちゃんと考えているの、どうするのと迫っちゃうわけです。そうなると戻ってきた側も「だってどうしろってんだ」ということになります。(つづく)