湯浅誠氏の講演(2)
 寄せ場とは、日雇い労働者が集まる、集められる町のことです。朝になるとその日の建設現場に行く車が乗りつけて、日雇い労働者が車に乗り込んで職場に行く、そういう場をいいます。大阪の釜ケ崎とか東京の山谷とかいうところです。少し前までは寄せ場にしかなかったこういう光景が、私の住む町の駅前でも見られるようになっています。朝7時半くらいになると派遣会社の車が5、6台乗りつけて、バス停のないところに並んでいた人たちを乗せていく。ああいう光景はまさに寄せ場の光景です。若い人だけでなく、おじさんもおばさんもいるんです。そういう状態で働く人が多くなってきて、ちょっと思い起こすと生活のいろんな場面に見えてきます。
 私は、昨日(2月21日)深夜に京都に着きました。夕食を食べようと牛丼店に入りました。カウンターと厨房で働く2人はともに50代くらいのおじさんでした。私が学生のころは深夜の飲食店やコンビニで働くのは、アルバイト学生だと相場が決まっていたと思うんですよ。それが今は、40、50代の働き盛りといわれる人たちが普通にやっています。働き盛りといわれる人がパートで働かないと食べていけなくなっちゃったという状態は、気を付けて見れば日常の中に広がっています。そういう事態は全体が低処遇の方に引っ張られるようにして落ちてきたからです。
 その問題はまさに貧困の問題です。ちょっとつまずくとすぐ滑り落ちてしまうので、私は、この社会は「滑り台社会」だと言っていますが、滑り台たるものは日常のいろんなところに見られます。貧困が生まれているのは、働いていれば食べていけるという状態が崩れてきた、非正規労働の拡大、年収200万円の人が1000万人超えたとか、あらゆる数字が示しています。しかし、その他方で正規労働者の働き方もきつくなるわけです。非正規がどんどん増えていけば、自分と同じような仕事を自分の半分とかそれ以下の給料でやっている人が同じ部署にいたりします。そうすると会社側は、こう言います。「隣であんたと同じ仕事をあんたの2分の1とか3分の1の給料でやってくれている人がいるよね。あんたは、その2倍、3倍の給料をもらってるだけの仕事をしているんですか。できないなら、契約社員なり派遣社員になってもらいますよ。だって不公平でしょ」と。  
 そうすると自分はそれに値する人間だということを証明しなくてはいけない。成果主義的なものが導入されたり、自分はすごく仕事ができるんだということを証明するためにいっぱい働かなくてはならなくなって、長時間労働とかが進行する。そうすると、うつ病、休職など、自分の体を守るために辞める人が増えてきます。去年の総務省のデータ「就業構造基本調査」を見ても、一番増えているのが30時間未満就業と60時間以上就業です。短時間と長時間が増えている。政府の報告書でも二極化の傾向が見られますね、としています。それを私は、過労死か貧困かという状態だといっているんです。中核的な正社員で働こうとすると過労死するような働き方をせざるを得なくて、それは無理だとなると非正規でもしょうがないと、そういうどっちかの極にふれないと、職場の中に、労働市場のなかに自分の居場所を見いだせない、そういう状態になりつつあります。(つづく)