「最近は全国的に知られていない高校でも甲子園でレベルの差が少ない」と昔と変わってきたと思われるところを聞かせてもらった。「京都では平安がいて、東山、京商、大谷、そして立命館ともベスト4を競った。雌雄を決した」と当時を振り返る。今挙がった高校も、もうベスト8に連続で進出することは難しくなってきているのが現状で、この中では平安だけが一時の低迷期はあったとしても、今でも強い状態を保っているといえるだろう。
 平安野球部OBはどれくらいいるのだろうか尋ねてみた。驚いたことに「OBは住所がわかっているだけで9600人~9700人ぐらいかな」。なんと1万人弱ということなのだそうだ。でも、「平安は100年だけど、東山や大谷は学校ができて130年以上だから、もっと多いかもしれない」と言う。京都師範(現京都教育大付)の名も挙がったが、ちょっとよくわからなかった。
 試合は、終盤に入っていて、平安が7回裏にセーフティバントで一死一、二塁のチャンスを迎えるが、松山商にうまく抑えられているのか点が入らない。7回を終了し、2-2の同点のままだった。もう試合の進行についてさっぱりわからない。夕方から始まる学校主催の式典には、野球部OBが120人と学校関係者が500~600人も西本願寺に集まるらしい。OB会の理事長は打ち合わせ済みなのかもうそろそろ出ようかと一瞬立ち上がったが、隣に座る2人は立とうとせずにじっと戦況を見つめていた。それを見て、もう一度腰を下ろし直した。
 いつの間にか8回に松山商はチャンスを迎えていた。一死一、二塁でショートゴロが飛ぶ。平安はダブルプレーでチェンジの場面だったが、ショートの二塁送球が悪く、二塁手の足が離れる。それでも打者走者はアウトにしたかったが、二塁手の一塁送球がそれる。ボールがファウルグラウンドに転がっているうちに二塁走者が三塁を蹴って本塁を狙った。一塁から本塁に送球される。捕手が走者にタッチにいくが、走者はそれをよけてホームにタッチする。空タッチになったか、勢い余って本塁を少し通り過ぎた走者が再び本塁をタッチしにいく。捕手もそれを見て、タッチにいった。両者ともに頭から滑り込んだが、こちらからはどちらが早かったのか見づらかった。タイミングが走者の方が早かったようで、審判は両手を横に広げた。8回表に3-2と松山商が待望の勝ち越し点を挙げた。平安はしめたと思った瞬間にあせりを生んだか。全ての走者がセーフとなり、なおも一死一、三塁と松山商は追加点のチャンスだった。しかし、この対戦はやはり何かが違うのだろうか。因縁という言葉が似合うのか、ショートからのバックホームと三振で平安はこのピンチを切り抜けた。
 OB会理事長ら3人は、それを見届けてから、ゆっくりと腰を上げて、階段を降りていった。内心はどうだったかわからない面もあるが、がっくりした様子でもなく平安を遠くから見守っているように見えた。長年の観戦歴からするとそれも当然なのだろう。(つづく)