ルワンダ大虐殺を取り上げた小説『神(イマーナ)の影』(2000年、フランスで出版/2019年、村田はるせ訳、エディション・エフ)の著者、ヴェロニク・タジョさん(67)の来日を記念した集いが3月4日、京都市中京区の堺町画廊で開かれ、40人が参加。小説や絵本について、エディション・エフの岡本千津さんが執筆動機や表現の意図などを質問しました。

 タジョさんは、コードジボアール人の父とフランス人の母を持ち、現在はロンドンとアビジャンを拠点に活動しています。2021年にフランス文化省の芸術文化勲章を授与されました。

 ルワンダ大虐殺は1994年、多数派民族のフツによる少数派ツチ族の大量虐殺で、国民の約1割の80万人以上が犠牲となったと言われています。タジョさんは、大虐殺から間もない98年と99年、「ルワンダ、記憶する義務によって書く」という作家たちのプロジェクトに参加して現地を訪問。多くの人から証言を得て、寓話のようなエピソードも交えて、小説にしました。

 『神(イマーナ)の影』は、短編集のように物語が展開されます。責任ある加害者を告発する死刑囚、かくまっていた子どもを殺すよう命じられたことを名乗り出て、自ら犯した罪を告白し、死刑を求める司祭、虐殺でなくした愛と生まれてきた子どもへの愛の話など、人々の記憶から人間模様を描いています。

 タジョさんは、ルワンダ虐殺を取り上げたことについて、人々の記憶が薄れる中で、アフリカ系作家として証拠を書き留めておきたかったと述べ、「たたかった相手は同じ国の同じ言葉を話す民族。でも家族まで殺した心の中には、『ツチ族はもともと外国人。必ずフツを殺しに来る』という恐怖のプロパガンダがあった」と話しました。

 小説に子どもたちも登場することについて、「戦争では子どもたちが忘れられがちです。恐怖の体験にはケアが必要。また戦争後には多くの孤児が生まれましたが、学校や児童施設の復興が遅れ、ストリートチルドレンが増えました。これは国の問題です。子どもたちを見捨ててはいけない」と語りました。

 戦争で父を亡くし、大人になりたくないと願った少女の絵本『アヤンダ』(18年、村田はるせ訳、風濤社)は、体だけが大きくなってしまう物語。「少女はパワーを手にするが、大きな体で家に入れず、一人野原で寝るしかない。権力は大きくなりすぎると普通の人たちから切り離される。権力を手にしても常に人々と一緒にいるべきだと伝えたかった」と話しました。

 参加者の一人、4月から広島の大学で平和学を学ぶ高校生(17)は「今も戦争がなぜ起こるのか、そうならないために何が必要なのか学びたい」と述べました。

 『神(イマーナ)の影』(四六判、216㌻、2200円)。エディション・エフ info@editionf.jp