安倍政権の経済政策「アベノミクス」を強く批判しているエコノミスト、浜矩子さん(同志社大学大学院教授)に、参院選結果をどう見るのか、経済、憲法、原発問題などについて聞きました。

自民政治に対峙できる野党必要

 参議院選挙の結果についてどのように受け止めていますか。

 「アベノミクス」を批判してきたものとして、間違った経済政策を進める自民党の圧勝は実に嘆かわしいですね。自民党が勝ったことよりも、対抗する野党が選挙前に敗北の状況をつくったことが、この結果を招きました。野党が総じてだらしない中で、日本共産党が8議席へ、飛躍的とも言っていい躍進を遂げたことは注目すべきことだと思います。
 最大野党の民主党・海江田代表は「アベノミクスは副作用が問題だ」と主張しましたが、それは違う。本作用に大きな問題があるのです。本質的な批判ができなかったことが敗北につながったのです。維新の会やみんなの党も真っ向から安倍政権と対峙できなかった。国民が自民党を積極的に支持したというより、だらしのない野党が自民党を勝たせたと感じています。

共産党なければ危機的政治状況

 日本共産党が躍進した要因と、今後期待することはありますか。

 「アベノミクス」を真っ向から批判し、憲法改正や原発推進をすすめる自民党政治に対し、明確な反対姿勢を貫いたことが集票力の高まりにつながった。日本共産党という党がなければ、反自民票の確たる受け皿が何もない。そんな危機的な政治状況の中での選挙でしたね。
 つまり、「他に投票するところがないから入れた」という層からの集票だったということです。今回の選挙では「まさか自分が共産党に投票するとは考えてもなかった」という人が悩みに悩んだ末、絶望のはけ口のような形で共産党に投票したケースもあったと思います。
 そのような側面から日本共産党は目をそらしてはいけない。民主党は自分たちの敗因をしっかり見据える必要がありますが、共産党も自らの勝因を誤解しないようにしなければいけない。真価が問われるのはこれからです。変に舞い上がって冷静さを失わないようにしてほしい。政治に関する責任の重さは与党も野党も同じです。鋭い切り口と広い視野をもって政策批判を展開していく。それが仕事です。
 ちなみに、今回、「憲法を守り生かす日本共産党に期待します」という世田谷在住市民としての意思表示への呼びかけに呼応し、直筆署名をしました。自民党を中心とする憲法改正への反対運動を支援したい。その思いを表明するための行動でした。

憲法改正と麻生「ナチス」発言問題

 自民党が狙う憲法改正についてどのように考えていますか。

 自民党は、憲法9条改正にとどまらず、96条を改正して憲法を変えやすくする、基本的人権の否定につながりかねないような改憲案を提示するなど、権力を縛るはずの憲法を国民を縛るものへと、根本的に変えようとしている。許しがたいことです。
 憲法改正論議を巡って、麻生副総理がナチス・ドイツ下の展開に言及し、「あの手口を学んだらどうかね」と発言しましたね。ナチスを肯定するなどということは、もとより許しがたい。これは言うまでもありません。さらにいえば、かりにナチスへの言及を伴っていなかったとしても、発言の趣旨自体に大きな非常問題を感じます。
 1つには、あのような言い方をするということは、要するに、国民の知らないうちにどさくさにまぎれて憲法を変えてしまいたいとと考えているということですよね。愕然とするほかはありません。
第二には、「(憲法改正は)狂騒の中で決めないでほしい」と述べている点です。つまり、彼は民主主義的論議のプロセスを「狂騒」と位置づけているわけです。このような発想に立っている人が議会制民主主義の中核的な場に身をおいているとは、なんと恐ろしいことか。

不安定、危険な原発は撲滅を

 安倍政権が推進する原発政策についてはどう考えますか。

 原発は、撲滅すべきだと考えています。こう言うと、原発推進勢力からはそれでは「経済が成長しない」「電気料金が上がる」などと言われます。しかし、これらの言い方は、そもそも、原発に大きく依存するエネルギー政策によって過大なレベルに押し上げられて来た経済活動の規模を前提にしたものです。「3・11」後には、確かに人々が節電を強いられ、街やビルの中がすっかり暗くなったりもしましたが、経済活動が停止状態に追い込まれたわけではなかった。原発ゼロを前提にした時、どのような経済活動の回し方が有り得るかを考えるのが筋だと思います。
 今現在も福島第1原発では放射能に汚染された水が大量に漏れ出している。原発技術というものがいかに不安定で、人間の制御能力に今なおいかに収まりきっていないかは明らかです。これほど危険で、リスクのあるものを基礎的インフラに組み込んでしまっていること自体について、本質的な再考が必要だと思います。
 政府はそれこそ「狂騒のなき」状況で、原発再稼働を定着させていきたいのでしょうね。政府は「エネルギーのベストミックス」という言葉が好きなようですが、その言い方を借用するなら、追求すべきは「脱原発のベストミックス」でしょう。(「週刊しんぶん京都民報」2013年8月18日付掲載)