話を聞きたかった人らの、一応のめどがついて球場前で友人と談笑していたら、20代の見覚えがある女性が2人でまだ残っていた。平安の試合に球場でよく見かけた。友人に尋ねたら「知らない」と言う。聞くしかないのだが、友人に押される形で話を聞いてみた。
 「高校の同級生」という彼女らは平安が母校なわけではない。公立校出身で「今は平安しか観ないし、行かない」ときっぱり。しかも「7年か8年前に高塚君がセンバツに出たとき」をきっかけに、その後5月に原田監督に一緒に写真を撮ってもらってからより「平安野球」が好きになったのだと言う。
数年前、スタンドにいる彼女らに気づいたときは、てっきり弟か親戚が出場しているのだと思っていた。保護者の中に混じって座っているがどう見ても若く、平安の帽子も被っていたと思う。しかし、1年が過ぎ、2年が過ぎても彼女ら2人は球場へやってくる。卒業したはずの弟はどうしているのか、そうじゃなかったのか。
こうして年下の高校生の男の子らを何年もどのように見ているのか。「なんかかっこいい。年下でも年上に思えるくらい」「ノックきれい」と平安に心底ほれ込んでいる様子だ。ほかの高校は「坊主じゃない」「態度が悪い」と手厳しい。
 そんな話を聞いていると「ちょっと待ってください」と一旦休止させられる。龍谷大平安の監督、選手らを乗せたバスが走り出すと、突然2人がそちらに手を振った。会釈する平安一行。「ええっ」と驚くと、「いつもバスを見送ってから帰ります」と淡々としている。何事かと思った。
「友達には『まだ行ってんの?』と言われるけど、ほかにこんなに楽しいのがない。春まで待てない」と今秋公式戦に出場がなくてもそれまでの伝統は失われるわけではなかった。「3月の沖縄キャンプ行こかな」。もう小さな応援団だ。
しかし、さすがに職場では言えないらしい。だから努力している。「平安のために極力普段は休みを取らない」「基本的には2人で行く」ということだった。今まで印象に残ったこととして「西野君の先制3ランがすごかった!」「ダルビッシュよりも服部君の方が何倍もかっこいい!」と5年前の夏の京都予選決勝や甲子園3回戦対東北戦での延長10回の激闘をふり返った。ダルビッシュよりも…、服部君の方が…。2人は平安一筋だった。
 「平安はライフワーク」という彼女らは、「次いつ見られるか不安。4月後半かな?」と
半年先のことにもう思いを馳せている。「最近は大学も社会人も行かなくなった」「プロは観ないし、興味もない」と野球が好きというよりは平安が好きなのだ。最後に仕方なく、女性に年齢を聞いてみた。24歳。「来年の龍谷大平安に期待しています!」。
 あまりのことに7年前の夏の準々決勝のことを聞くのを忘れた。「まだそのときはよくわからなかった」と言ったかもしれない。高塚君とは7年前の松山商戦の先発投手だった。「来週、横浜で練習試合があるので、東京遠征しようかな」と言っていたと思う。(おわり)