昨年末の優良品種茶園品評会で農林水産大臣賞を受賞した(株)丸利吉田銘茶園の16代・吉田利一さん(65)=京都府茶生産協議会会長=に、茶作りにかける思い、農業に大きな影響を与えるTPPなどについて聞きました。

宇治茶の定義独自基準決定

吉田利一さん

 ──日本茶離れが進んでいます。ペットボトルの台頭と急須ばなれ、拍車をかけたのが福島原発事故による放射能汚染。「このままではお茶はだめになる」と生産者や業者らと力を合わせて、京都府のお茶の定義や独自の基準を決め、団結して茶生産を向上させようと奔走しています。

 この10年ほどは我々にとって本当に大変な状況が続いています。景気が悪いところへ原発事故による放射能問題で茶業界は無茶苦茶になりました。事故直後の4月、まだ芽も出ていないような生葉2キロを摘んで調べてもらいました。幸い京都では検出されませんでしたが、神奈川県の足柄茶に始まり、静岡、三重、和歌山で被害が出ました。京都ではその後、何度も調べた上で府知事に安全宣言を出していただきました。九州の茶産地や京都でも少しは値が上がり、恩恵を受けたでしょうか。それでもお茶離れには追いつきません。
 01年のBSE騒動で偽装表示が問題になった時、全国に先駆けて06年から府茶生産協議会では自主的に生産履歴を付けています。この履歴が無いと取引できません。少しでも農薬散布の回数を減らそうと害虫の出る直前にまくよう、絶えず茶園を見回ります。抜き打ち検査もしています。
 04年にはお茶のペットボトルが発売されました。家庭や会社で茶葉を使う人が減り、府内で00年に約1500トンだった煎茶の生産量は、11年には733トンと半分以下に落ちました。逆に生産量が1.7倍と急増しているのが抹茶の原料となるてん茶です。抹茶のスイーツブームに後押しされています。
 碾茶はうま味と香りを出すため、収穫前の20日間ほど、直射を避ける覆いをかけ、手摘みをします。少しでもそこに近づけようと、機械刈りの茶園でも、覆いをかぶせる栽培法が開発され、単価を上げようと2番茶、3番茶を碾茶にする所も出てきました。
 また、菓子の原材料に「宇治抹茶」と書かれるようになりました。お茶は宇治から伝わったのだからどこでも宇治茶やという乱暴な理屈もあり、これを巡って「宇治茶」って何なんやという議論が起こったんです。宇治や山城地域では、覆いをして手摘み、手揉み、碾茶は専用の碾茶炉を通して、本当に丁寧に製茶しています。でも三重県ではモガ茶といって、覆いもせず、機械で刈って機械で揉んで粉にして抹茶として売っています。味や香りよりも主に着色のためなので、同業者として共存共栄を考えると頭が痛い。
 侃侃諤々かんかんがくがくの議論をして、04年3月、府独自でお茶の定義を決めました。宇治を集散地として共に発展して来た京都、三重、滋賀、奈良で生産されたお茶で、京都府産が優先して入っており、宇治の業者が仕上げ、加工したものを「宇治茶」としました。碾茶は昨年4月、「宇治茶」を使い、覆いをすること、手摘み、20日以上被覆するなどの条件を満たしたものを「宇治碾茶」と決めました。(「週刊しんぶん京都民報」2013年3月3日付掲載)