「保険料の支払いで精一杯。病院に行きたくてもいけないんです」─京都市では、失業や非正規雇用の増大で市民の所得が下がる中、国民健康保険料が加入世帯の生活を圧迫し、治療できない市民を生んでいます。(国保問題取材班)

「こんなにも悪化せずに」

所得割基礎額グラフ 「あの時、病院に行けたら、こんなに悪化しなかったのに…」。伏見区に住む稲葉理子さん(30)=仮名、アルバイト=は、痛む腰に手をあて、うなだれます。
 4年前、腰痛に襲われました。医者からは、仕事を休んで通院するよう言われますが、「生活費を稼ぐため」翌日から出勤を続けました。
 月収約10万円から、家賃4万円や水光熱費などを払うと残るのは約4万円。月5000円の国保料を払うのが精一杯でした。窓口負担を考えると病院に行けず、腰痛は椎間板ヘルニアに悪化しました。
 以降、親からの援助を受けて、週5日接骨院に通院。就職しようとしても、フルタイムの労働や座り続ける仕事、肉体労働はできず、短時間のアルバイト生活から抜けだせません。
 「ずっとこのまま非正規で働くしかないんかなあ…。保険料の5000円があれば、治療ができたかも。一体、何のための保険料なんでしょうか」

非正規・失業増加がすすむ

 京都市国保加入世帯(約22万)の低所得化が進んでいます。
 ワーキングプアと呼ばれる世帯の年間所得は200万円以下。京都市国保加入世帯で、所得割基礎額(所得から基礎控除33万円を引いた額)200万円以下の世帯が占める割合は、06年度の86.3%から、10年度には約88.8%に増えました。
 特に100万円以下の世帯は、06年度から10年度の5年間で5.8%(グラフ1)増加。加入世帯に占める割合は73.8%(10年度、グラフ2)にのぼります。
 低所得化の原因は、加入世帯の約9割を非正規雇用者と失業者・無職者が占めているからです(告発・京都市国保 〈1〉加入者の変ぼう 非正規世帯無保険に)。

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「治療代が出せない」

年間所得に占める国保料の割合(3)年間所得に占める国保料の割合(11年度)40代夫婦子ども2人世帯のケース

 区役所の国保料相談窓口。男性(41)が懇願しました。
 「保険料を減免してもらったけど、月5000円。保険料払ったら、持病の胆石の治療代が出せないんです」
 昨年失業し、アルバイトで妻と小学1年までの子ども2人を養っています。月収は約10万円です。
 担当職員は嘆きます。
 「所得が低くて家族持ちの人が、相談に来られるとつらい。保険料が高すぎて払える状態やないのは、よう分かってるから…」
 京都市の保険料は(1)所得に関係なく定額の平等割(2)世帯の人数に比例する均等割(3)所得に比例する所得割│の3つを合計したものです。そのため、所得が低く家族が多いほど、所得に占める保険料の割合は高くなります。夫婦と子ども2人の4人家族で年間所得100万円の場合で、24.8%(グラフ3)にのぼります。

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病院に安心して行きたい

 高すぎる保険料は、受診抑制や治療中断へとつながっています。
 京都民医連や京商連などでつくる「京都国保調査実行委員会」が昨年12月、伏見区で国保世帯220人から聞きとった調査では、保険料や治療費の負担などが理由で「受診を先延ばしにした」と回答した人は27.2%。同じ理由で「治療中断したことがある」と答えた人が15.6%になりました。
 ハローワーク前。「国保料が高すぎて、病院に行けない」という失業者の声が続出しました。
 妻と子どもを持つ36歳の男性は、「『心室細動』という心臓の病気で、医者から手術が必要と言われました。月1万円の保険料を払うのが限界で、2年間病院には行っていません。早く社会保険のある仕事について手術したい」と訴えます。
 妻と中学3年の息子を持つ58歳の男性は、糖尿病の持病を持っています。
 「区役所で、保険料が毎月2万3000円と言われてびっくりした。半年払ってきたんやけど、これ以上払ったら、病院に行けへんから今は無保険や」と言います。
 治療費は、月6000円。全額自己負担です。収入は、妻がビルの清掃のアルバイトをして稼ぐ月10万円だけです。
 「この年齢では、仕事は見つからん。払える保険料やったら、国保に入って、病院に安心して行きたい」と訴えました。

「週刊しんぶん京都民報」2011年11月06日付