中村和雄

 “大地震と若狭湾原発群事故の同時進行でも複合災害のリスクはかなり少ない”、“琵琶湖の放射性物質は大量の湖水で薄まる”―こんな見解を、京都市防災対策総点検委員会が「中間報告」でまとめていることが分かり、市民、専門家から「原発事故への認識を疑う」と批判の声があがっています。

水俣病被害の惨禍を繰り返してはならない

元水俣病訴訟弁護団京都市長予定候補 中村和雄さん

 「中間報告」で、若狭地域の原発事故による琵琶湖の放射能汚染は「水量が多いため、水中で希釈される」などと書かれていることに、びっくりしました。
 何の科学的根拠も示さない「希釈」論は、国が水俣病で企業の責任をあいまいにするため行った主張と全く同じです。
 私は85年、弁護士になりたてのとき、水俣病京都訴訟の被害者側弁護団に参加しました。患者さんに原告となってもらうため、一軒一軒訪ねて回る活動を行いました。弁護士活動の原点は、水俣病患者救済にあります。
 加害企業であるチッソは、「海は広いから水銀は希釈される」として、水銀を海にたれ流し続けていたものです。そのため、多くの被害者が苦しむことになりました。患者救済を遅らせました。京都市が今ごろ、「希釈」論を持ち出したことに怒りを覚えます。  

水俣の教訓活かすとき

 現在、福島第1原発の被災者を救うため活動を行っている弁護士や運動団体の間で、「水俣の教訓を活かせ」というのが合言葉のように広がっています。
 「水俣の教訓」とは、全住民の健康調査に基づく被害状況の把握と必要な対策を講じることです。水俣では、国や県が実態の全容を把握しなかったことが、被害者救済の不十分さにつながりました。
 福島第1原発を第2の水俣にさせてはならないと思います。京都市は、福井原発から30キロ~80キロ圏内にあります。市が、市民の命を守るというのなら、福島に調査団を派遣して、被害の実情を正確につかむべきです。その科学的データに基づいた対策こそ求められています。
 「中間報告」からは、防災対策を真剣になって作り上げようとする熱意が、残念ながら感じられません。

「中間報告」
 同総点検委員会は、東日本大震災・福島第1原発事故を受けて市防災計画を見直すため、行政関係者や学識経験者28人が参加して6月22日と8月29日の2回開催。第2回委員会で「中間報告」をまとめ、市に提出しました。
 中間報告は、「原子力発電所事故等に関する対応」について、「今後、京都市域で大規模地震が発生し、同時に若狭地域の原子力発電所で事故が起こって、福島第一原子力発電所で起こったような複合災害が起こるリスクはかなり少ないというのが、原子力の専門家の見方である」「琵琶湖の水の放射性物質による汚染に関しては、仮に琵琶湖方面へ放射性物質が飛散したとしても、琵琶湖の水量が非常に多いため、水中で希釈される」などとしています。(詳しくは「週刊しんぶん京都民報」2011年9月11日付)