京都 町家の草木

合歓

合歓
ネム【マメ科ネムノキ属】

 不思議な名前の木。その響きには安らぎが感じられる。この花も六月の花らしい甘い香りを持っている。合歓の花は紅色がかっている。でも、裏庭のは真っ白。未熟のブラックベリーのような青い無数の小さな蕾の塊りが、一つの花を形成する。

 この木は私の記念樹。ある人との出会いを記念して植えた。
 西の空に一番星が光り始める頃、蕾の固まりの一つひとつが緩みはじめる。すると、丸めた糸屑のようであった雌蘂(しずい)が徐々に自由を得て、恐る恐る解かれてゆく。
 三方を山に囲まれている京は、湿り気を含んだ空気が夕方に山から冷気となって盆地の底に沈む。この気の流れに従って、花の香りも立ちのぼるのではなく、ある高さの空気の層の境目あたりに溜まって水平に漂うように思われる。
 絹糸を束に結わえて房を上向けに広げたように咲く合歓の花は、弱い風にもそよそよなびいて、優しく夕闇迫る時刻を刻んでくれる。
 西の空には、月鉾の鉾頭のようなお月さん。そろそろ祇園祭のお囃子も聞こえてくる。
2009年6月27日 10:10 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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