■財界の意向で「もうけ」口に

 昨年6月、地方独立行政法人法(以下、地独法という)の一部が「改正」され、市町村の窓口業務のうち公権力行使を含む「定型的業務」を地方独立行政法人に委託することが可能となりました。

 これは東京都足立区の戸籍事務の民間委託が住民から批判を浴び、2014年に業務の一部を直営に戻さざるを得なかったことを受け、窓口業務を「もうけ」の対象としたい財界の意向を色濃く反映した「骨太方針2015」に基づき、地方独立行政法人を突破口に窓口業務の包括的な委託を進められるようにする意図を持ったものでした。

 昨年5月17日に衆議院総務委員会において「地方自治法等の一部を改正する法律案」についての参考人陳述が行われ、参考人の一人として意見陳述を行った際の陳述内容を元に、法施行により自治体にどんな影響を及ぼすのか最近の国や京都府内での動きも含めて考えてみたいと思います。

 もともと地方独立行政法人は「地方公共団体が自ら主体となって直接に実施する必要のないものの、民間の主体に委ねては確実な実施が確保出来ないおそれがある」(地独法第2条)業務を担うこととされており、04年の法施行当初には窓口業務は地方独立行政法人の業務としては想定されていませんでした。

■人権守る自治体の機能を損なう

 地独法第21条に地方独立行政法人の実施可能な「業務の範囲」が規定されていますが、これまでの①試験研究、②大学等の設置・管理、③病院事業等の経営、④社会福祉事業の経営、⑤介護老人保健施設等公共的施設の設置・管理、に申請等の受理や申請等に関係する定型的業務で「別表に掲げるもの」を新たに加えることとし、その別表では、戸籍、住民基本台帳、マイナンバー、地方税、国民健康保険、高齢者医療、国民年金、介護保険、障害者福祉、母子保健、児童手当をはじめとした広範な窓口業務を対象にしました。

 さらに具体的にどの事務の委託を認めるのかは総務省令で定めることとなっていましたが、昨年12月4日に定められた総務省令では「定型的」との理由で幅広い事務が盛り込まれました。

 窓口業務を地方独立行政法人に委託することで想定される問題点として、①窓口業務を地方自治体の業務から切り離すことで、住民の基本的人権を守る自治体の機能が損なわれること、②住民の個人情報の管理や、不正な請求などに対して、適正な対応ができなくなるおそれがあること、③複数の市町村の窓口業務を一括して地方独立行政法人に委託できるようにすることで、地方自治体の業務の集約、統廃合を加速させることに繋がること、があげられます。

 足立区の戸籍事務の民間委託では、従来5分程度で済んでいた証明発行が3時間以上も待たされる事態が生じるとともに、委託により1000万円以上も支出が増えるなどサービスは低下し、コストは増大する事態となりました。

■京都市の調査でも批判多数

 また、民間業者が窓口で聞き取り等により申請者の本人確認する作業などが戸籍法違反にあたり、受理の可否について職員の判断を仰ぐことが偽装請負にあたるなどの問題も発生し、住民の批判が高まる中で、足立区は業務の一部を直営に戻さざるを得ませんでした。

 現在、京都市や福知山市において窓口業務の民間委託が検討されています。京都市がこの問題で実施した市民アンケートでは回答者の57・4%が「個人情報の流出が不安なので外部委託をすべきでない」、40・9%が「公務員が行う業務なので、外部委託すべきでない」と回答しており、民間委託を求める声は少数で、多くの住民が民間委託に対する不安を抱いていることが明らかになっており、京都市はこの声に応え、検討を直ちに中止すべきです。

 総務省は、16年から民間委託などの進み具合を地方交付税の配分に反映させる「トップランナー方式」を導入しましたが、窓口業務の民間委託化を基準とすることについては引き続き検討課題とされてきました。しかし、昨年12月1日に野田総務相が「2019年度の導入を視野に入れて検討」と表明した中で、これを許さないたたかいとともに、行政サービスの破壊と地方自治体の空洞化をもたらす窓口業務の民間委託化を自治体に持ち込ませず、憲法をいかし、住民生活を守る地方自治体をつくるために、住民と共同したたたかいが求められています。

(「週刊京都民報」1月21日付より)