湯浅誠氏の講演(9)
 私、新幹線で来ましたけれど、新幹線のターミナル駅で、人を吐き出したあとに一回ドアが閉まった後に清掃のおばさんたち4、5人くらいのチームが、めちゃくちゃ忙しそうに掃除していくの見たことがあると思います。あれを見ていて、この人たちをとりまく労働条件はどうなっているだろうかと考えます。
 新幹線が増発されていく中で、現場的には労働強化になっているわけですね。例えば、今まで3両を10分で掃除してくださいと言われていたのが、今度からは9分でやってください、8分で、7分でとなってくるわけです。となると現場では、今までは多少おしゃべりしながらできるようなところがあったかもしれないけど、だんだんだんだんできなくなってくる。時間内に終わらせるためには黙々と走るようにやらないと片付かないという風になってきます。そうなると、ついていけない人たちがそのチームの中に出てくるわけです。ちょっとひざが痛い人とか、テキパキとちょっとできない、もたついちゃう人とか。今までならフォローしていた人も自分はフォローできなくなる。なぜかというと自分も走るようにしないと終わらないから、余裕がなくなってくる。余裕がなくなって追い詰められればられるほど、許せなくなってくるんですよ。だって私はこんなに一生懸命やっているのに、あんたがもたついてるから終わらないんだと、なんでこれで同じ給料なんだという話になってくるんですよ。追い詰められていけばいくほど自己責任論がはびこります。
 そうすると何が起こるかと言うと、職場から解雇される以前に同僚のいじめが起こり、いたたまれなくなって辞めていくわけです。そうして、労働市場の外に出る。これは自己都合退職かもしれませんが、生きていけなくなって、役所に相談に行くと、「あんた働けないんですか」「ちょっと膝が痛いだけなんでしょ。働けるでしょ」と、「ぜいたく言わないで働きなさい、仕事はいくらでもあるんだ」と言って、そこからもはじかれる。あっちからもこっちからもはじかれて、ワーキングプアになって、「ノー」と言えない労働者になって、もう一回労働市場に戻ってきます。私は膝が痛くて十分働けませんから、どんな賃金でもしょうがないんだってことになって、それをのまなきゃいけないことになってきますから、労働条件はさらに切り下がる。さらに職場条件はきつくなっていくわけです。
 ですから、貧困の問題というのは、あのかわいそうな人たちをどうするかという話ではなくて、みなさんの職場にいるあのちょっと困った人どうしますかという話なんです。こう、ちょっともたついちゃって、困ったわねぇっていう人。その人がいるおかげで10時帰りになる。フォローしようと思ったら11時帰りになると。あんたもうちょっとちゃんとやってよって話になっていって、だんだん排除しやすくなっていくんです。排除されたら、「ノー」と言えない労働者になるしかないんです、今の状況では。そうやって、労働条件全体が切りさげられていく。ですから、その時に、あの人はしょうがない、あの人は職場に迷惑かけているんだといっていたら、貧困の広がりは止まりません。それは自分たちの労働条件もますますきつくなっていく、それがさっきの「貧困スパイラル」ということです。(つづく)