昔を今に 菓子つれづれ

睦月 菓子屋のお正月

 新年、迎春。気持があらたまり、清々しい気分で始まる月です。和菓子の世界での注目は、干支菓子と御題のお菓子。年によっては作りにくい年もありますが、2010年は寅年で御題は光。寅は作り易い方でしょうか。
 寅年で考えたのが「竹に虎」の景色から思いついた「竹林居」。薯蕷(じょうよ)で虎色の小判型をつくった上に長短3本の緑の竹を貼り付けて虎の棲(す)む竹林を表現してみました。光は、御来光の神々しさから「曙(あけぼの)」と命名し、2色の羊羹(ようかん)と錦玉(きんぎょく)を使いました。
 幕の内が明けますと、寒中。雪や氷、魁(さきがけ)の花・梅にちなんだお菓子が出始めます。生地も薯蕷、こなし、きんとん、餅、ねりきりなどを使います。菓銘も「松の雪」「笑顔」「うすらひ」「未開紅」「此ノ花きんとん」「常盤木(ときわぎ)きんとん」「丹頂」など華やかです。お年始にこられたお客様には、干支や千代結び松葉等の御干菓子を添えて出されると良いでしょう。
 各茶家では1年の無事、弥栄(いやさか)、精進を祈る初釜が催されます。裏千家では宮中の年賀行事に由来する菱葩(ひしはなびら)を茶菓子に改めた葩餅(写真)が出されます。白い餅に桃色の餅を重ねた上に味噌餡(あん)で挟んだ蜜漬のゴボウを置いて二つ折にした、古雅な趣のあるお菓子です。

 菓子屋の正月準備は、12月の事始めが済んでからが本番です。私が子どものころの実家(京菓子司)の風景を振り返ってみると…。
 たとえば餡。白餡や葩餅の味噌餡、きんとん用、干支菓子や御題菓子の分、羊羹、こなし生地の分など、60キロ入り(昔風に云うと4斗)の小豆、大納言や白小豆や手芒(てぼ)豆のドンゴロス袋がみるみる減っていきます。それに連れて白双糖の30キロ入りの紙袋もどんどん空いていきます。餡棚もびっしりと餡函で埋まり、分厚い棚板も重みでしなるほどです。
 工場の裏手の餡漉し場では製餡作業やごぼうの水洗いなど冷水で手が真っ赤になってつらいものですが、仕事に励む店中の活気でや絶え間なく上る煮炊きや蒸し、焼き物の熱気で余り苦になりませんでした。そして、年末の帰省がはじまるあたりから、連日連夜店中に小豆や卵などの匂いが充ち、製造されたお菓子の甘い匂いでうめ尽くされます。
 大晦日から新年に替わり、おけら火の紙子臭い匂いをかぎながら、仕舞の大掃除がすめば、菓子屋の1年も終了です。

 元旦はお休み。2日は定時(午前8時)から仕事です。当時は明治生まれの祖父母がおりましたので、家族、従業員全員が作業場に集合して、国歌斉唱、年賀の挨拶、大福茶を飲んで全員にお年玉が渡されて、一斉に仕事開始。室町筋の呉服屋さんが3日から「初市」を開催されるので、その折のお土産にと大量の注文を頂いておりました。3日からは運送屋さんに頼んで山積にしたお菓子を上は丸太町室町から下は六条あたりまでお届けしたものです。店には、年始の御客さん用にお出入りの旅館や料理屋さんの注文も入ってきます。10日前後には各茶家の家元に続き、町の先生方の御初釜が始まり、また忙しくなります。そして、松の内が済むと、ようやくお菓子屋のお正月休みとなります。

京の菓子ごよみ 睦月
「葩餅」京の菓子ごよみ

睦月のお菓子

竹林居 干支菓 「竹林居」 【薯蕷、漉し餡】
 干支の寅に因み、「竹に虎」から思いついきました。薯蕷でオレンジの虎色の小判型を作り、長短3本の緑の竹を張り付けています。虎が棲む竹林を想像していただけますでしょうか。干支菓子は職人の腕の見せ所。各和菓子さんの店先に並ぶ干支菓子を見て回るのもこの時期の楽しみです。
2009年12月25日 12:36 |コメント1
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甘楽花子(かんらくはなご)
京菓子司の家に生まれ、2003年独立開業。兄が4代目を継ぐ実家では、主に茶道用生菓子を製造しており、生まれながらのお菓子屋と自分では思っています。趣味は多岐に渉りますが、茶道は裏千家、茶名は宗豪、準教授です。

Shop:京都市中京区烏丸丸太町下ル大倉町206オクムラビル1F TEL075・222・0080 →map

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お正月の和菓子は魅力的ですね

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