今年は一日が初午、お稲荷さんが大賑(にぎ)わいになる日です。節分より前に初午が来るのは珍しいような気がしますが、いずれにしても大寒を過ぎてからこの頃が一番寒気の厳しいように思われます。
この月のお菓子、初午や節分に因んだものもありますが、何と言っても雪と梅をテーマにしたものが殆どで、月末に至って春の訪れを思わせるお菓子が顔を覗かせます。つくね芋を裏漉し、白餡(あん)と練り合わせた「ねりきり」が多用される月でもあります。近年人気の高い「雪餅」はこのねりきりを馬の尾の毛を編んだ毛通しで通して微細なそぼろにして、黄身餡をくるんだ菓子です。つくね芋と白小豆の香り、雪のように口中で溶けるねりきりと黄身餡の食感、むっくりとした風味が厳しい寒さの中ほっとした温もりを感じさせてくれます。雪餅のように使うほか、生地として餡を包んで、赤い点を散らして茶巾絞りにした「雪中梅」、ピンク色のきんとんの上に細いそぼろをかけた「香雪」のように表現するのにも使います。
梅はもうそれこそ定番の「未開紅」から百花の魁(さきがけ)、ピンク色に染めたこなしの絞りに氷餅をかけて「さきがけ」、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)の紅白振分で「咲分」、こなしの山道の変形で「軒端の梅」等をつくります。
月の終わり頃には鮮やかな若草色のきんとんにねりきりのフワッとした雪をふりかけた「雪間草」、または「下萌」、天然の本蕨(わらび)粉を使って漉餡を包み込み、香り高い黄な粉をふりかけた「早蕨」も出ます。蕨粉と漉餡の風味が黄な粉の香ばしい香りに包まれて徐々に拡がっていきます。土の恵みを実感し、季節のめぐりを予感する、そんな楽しみがこの月のお菓子にはあります。
そうそう、梅につきものの鶯(うぐいす)も木の枝で「初音」して「春告鳥」の本領発揮です。
「冬来たりなば春遠からじ」と申しますが、見た目、口当たり、味覚の各々に温もりを感じられる生地、餡が多用されます。季節ごとに使われる生地が変わり、当然餡も生地に相応した状態に調製しておきます。毎日の作業ですので、特に面倒なこととは思いませんが、こういうちょっとしたことを怠りなく続けることが美味しさにつながります。
前年秋の終盤に和菓子の主原料、小豆、白小豆、大納言小豆、つくね芋、米の粉、餅粉等がみな新物に変わっていますので、2月くらいまでは風味の中に新鮮さが感じられ、特にお菓子の風味が豊かな月と言えます。薯蕷饅頭のきめ細かく張りの強い皮の美味しさ、きんとん等の粒餡の香り高さ、こなし生地に蒸し上げた白餡の粘りと食味の優しさ等はこの季節ならではと思われますので、是非味わっていただきたいものです。
なお、前出「雪間草」は藤原家隆の「花をのみ待つらむ人に山里の雪間の草の春を見せばや」から取った銘です。