出勤途中に自転車同士でぶつかってケガをし、会社を休みました。出勤途中のケガは、労災にはならないのですか?(33歳、女性、京都市)

通勤災害保護制度の給付が受けられる

(79)出勤中のケガイラスト・辻井タカヒロ

 労災保険法は、業務上による負傷(業務災害)だけでなく、通勤途上の負傷(通勤災害)についても保障を定めていますので、この「通勤災害保護制度」による給付を受けることができます。
 業務災害については、労働基準法が、使用者による災害補償責任を定めています。しかし、零細企業などで使用者が責任をとれない場合が予想されたので、国は、事業主を強制的に保険に加入させて、労働者に災害補償給付を確実に保障するために労災保険制度を設けました(1947年)。
 その後、労災保険は、労働基準法を上回る内容や給付水準を定める改正を繰り返し、現在では、独自の制度と言っても良いほどに充実した制度になっています。
 この労災保険独自の内容の一つが、「通勤災害保護制度」です。その特徴は、(1)通勤災害について、特別支給金を含めて、業務災害の場合とほぼ同様な保護であること、(2)業務災害の場合の療養補償給付、休業補償給付等を、「補償」という言葉を抜いて、通勤災害では療養給付、休業給付等と区別して呼ぶこと、(3)業務災害の場合の「療養期間とその後30日間の解雇禁止」(労働基準法19条)が適用されないことなどです。
 保護の対象となる「通勤」とは、労働者が就業に関し、(1)住居と就業の場所との間の往復、(2)複数職場間の移動、(3)遠隔地赴任の場合の移動を、「合理的な経路と方法」により行うことをいいます。
 この経路を「逸脱」した場合や「中断」した場合は、原則として通勤災害にはなりませんが、買い物や保育所の送迎など、日常生活上必要な行為でやむを得ない最小限度の場合は、「逸脱」や「中断」があっても例外的に通勤災害の保護が認められます。
 ご相談では、出勤途中に自転車同士でぶつかったとのことですから、明らかに通勤災害と言えます。労働基準監督署に請求すれば、治療費全額にあたる「療養給付」、休業4日目から「休業給付」(給付基礎日額の6割)と「特別支給金」(同2割)を受けることができます。(「週刊しんぶん京都民報」2011年3月6日付

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。