うちの会社では残業代がちゃんと払われていません。自分で残業のメモをつけるなどしてチェックしていますが、上司に言う勇気がありません。仕事を辞めてから残業代を請求した人はいるそうですが、仕事自体は気に入っているので、辞めずに残業代を求めていくにはどういう方法をとればいいでしょうか。(33歳、男性、京都市)

残業記録を正確に残し労働基準監督署に申告

(73)不払い残業代の請求イラスト・辻井タカヒロ

 労働基準法が定める法定労働時間は、1日8時間、1週40時間です。これを超える残業は原則として違法です(32条)。使用者(会社)は、労働者の過半数代表と協定を結び、この協定を監督署へ届出したときにだけ、例外として法外残業を命じることができます(同法36条)。
 この場合、最低でも25%の割増賃金を支払う必要があります。これとは別に、休日労働には35%、午後10時から午前5時までの深夜労働には25%以上の割増賃金が必要です(同法37条)。
 同法改正によって、2010年4月1日から、(1)1カ月60時間を超える時間外労働は、法定割増賃金率が50%に引き上げられました。また、(2)事業場で労使協定を締結すれば、1カ月60時間を超える時間外労働を行った労働者に、(1)の引上げ分(25%から50%に引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することができることになりました。ただし、中小企業については、当分の間、(1)と(2)の措置の適用が猶予されます。
 残業代が支払われない職場では、労働者として残業の記録を正確に残しておくことが重要です。時効は2年です。労働基準法違反について、労働基準監督署に労働者個人でも申告することができます。
 最近では、余りに長時間の労働が過労死に結びつくことを心配した家族が申告する例もあります。労働基準監督署は、会社に分からないように申告した労働者の秘密を守ってくれます。
 実際に監督官が職場に入っても、申告者本人が特定できない方法で関係者から話を聞くなどして違法な不払い残業慣行が改善されることになります。
 しかし、長く働き続けられる職場を作るためには、労働者自身が、職場の労働条件改善について同僚たちと一緒に行動することが重要です。
 そして、地域労組のベテラン相談員などの助言を受けて、労働組合を結成して加入し、団体交渉などができれば職場を大きく変えることができます。(「週刊しんぶん京都民報」2010年11月21日付

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。