消防士をしています。命がけで昼夜問わず働いています。しかし、消防士は労働組合がありません。みんな仕事で疲れ、要求もたくさんあるのに、組合がないのはおかしくないですか?(45歳、男性、京都市)

ILOが団結権を認めるよう勧告

(68)消防士の労働組合イラスト・辻井タカヒロ

 消防職員は、生命の危険を伴う過酷な業務に従事しています。しかし、労働条件や職場環境で多くの問題が指摘されてきました。(1)余りに長い拘束時間、休息できない休憩・仮眠時間、非番日の拘束、(2)低い賃金と不合理な決定、(3)労働安全面での不備(訓練中のケガ多発、危険や病気感染への無防備など)、(4)人権無視、情実による人事管理、などの問題です。
 京都市でも、若い消防士が、過酷な訓練中に倒れて、くも膜下出血で亡くなったことがあります。その行政訴訟で大阪高裁は「日常の業務は精神的肉体的に負担が多く、相当な疲労を蓄積していたところに、寒中、厳しい訓練をしたので脳動脈瘤(りゅう)が破裂した」と、公務災害を認定しました(1994年2月23日判決)。
 こうした過酷な状況を改善するには、労働組合が必要です。しかし、ほとんどの消防職員は市町村の地方公務員ですが、警察職員と並んで組合結成が禁止されています(地方公務員法52条5項)。
 本来、憲法28条は公務員にも労働基本権を保障しており、ILO(国際労働機関)87号条約は、労使は、事前の認可なしに自ら選択する団体を設立し、加入する権利をいかなる差別もなしに有する(第2条)として、「結社の自由」を明確に定め、各国にそれを守ることを求めています。
 日本政府は、同条約が「軍隊・警察に適用する範囲は、国内法令で定める」と規定している(9条)のを根拠に、「日本の消防は警察に含まれるから、組合を禁止できる」と苦しい弁解をしてきました。
 しかし、1973年にILOが、日本の「消防職員にも団結権を認めることを希望する」と表明したため、日本政府は逃げられなくなりました。その後、消防職員自身のなかでも、立法による明確な団結権保障に向け気運が高まってきています。2009年秋の政権交代の後、総務省で関連の法律案作成に向け、審議が進められています。
 日本は、公務員の団結権制限という点で国際的には余りにも異常です。世界では警察官の団結権を認める国も少なくありません。
 消防職員の団結を禁止する主要国は日本くらいです。消防士も団結権があってこそ、労働者としての当然の権利や職場の民主主義を守ることができるのです。(「週刊しんぶん京都民報」2010年8月29日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。