先日、先生の講演を聞きました。ヨーロッパなど欧米や韓国などに比べて日本は長時間労働だと言っておられました。どのくらい労働時間に違いがあるのか教えてください。(21歳、男性、京都市)

長時間労働者数は独仏の5倍以上

(59)欧米、韓国と比較〈2〉イラスト・辻井タカヒロ

 日本の労働者の実労働時間は世界一、二と言える長さです。国際労働機関(ILO)調査では、男性の週当たり労働時間は日本が46.5時間に比べて、イギリス40.8時間、ドイツ38.5時間、フランス38.1時間と大きな差があります(05年)。
 週労働時間が50時間以上の労働者は日本は28.1%で、ドイツ(5.3%)やフランス(5.7%)の5倍です(00年)。欧州では労働者が残業するのはごく例外です。欧米では「アフターファイブ」に残業を命じるのは、労働者個人の生活時間を不当に侵害するという意識が強いのです。
 また、日本の割増賃金率は法定外や深夜で25%、休日で35%と世界でも最も低い水準です。とくに日本では賃金のなかでボーナスや各種手当の比率が高いのに、これらを割増賃金算定から除外しています。欧州では時間外は50%、休日や深夜は100%など高水準の割増率を全国協約で決めており、算定除外する賃金部分も少ないので実質的な割増率は日本よりずっと高くなります。
 さらに、日本では賃金さえ支払わない「サービス残業」という異常な慣行があります。労働時間が比較的に長い韓国でも、「違法不払い残業が日本の職場で蔓延している」と言うと、「どうして文句が出ないのか?」「組合は何も言わないのか?」などと逆に質問され、なかなか理解してもらえませんでした。
 年次有給休暇も、日本では労働基準法で20日が最長ですが、「細切れ取得」が一般的です。しかし、ドイツやフランスでは労働協約で約30日あり、連続付与(フランスでは最高24日)が法定され、バカンス目的で年休が使われています。
 日本では年休取得率は8.5日(47.7%)で、半分以上が未取得です(08年)。イタリア憲法が「年次有給休暇はこれを放棄してはならない」と定めるなど、欧州では年休完全取得は労働者の当然の権利という意識が定着していて、休暇取得が可能なだけの人員体制を組むことは使用者の義務になっています。(「週刊しんぶん京都民報」2010年4月11日付)

わきた・しげる 1948年生まれ。龍谷大学教授。専門分野は労働法・社会保障法。