京都 町家の草木

ジャーマンアイリス

ジャーマンアイリス
ジャーマンアイリス【アヤメ科アヤメ属】
 花びらを柔らかくほどいて魅せるジャーマンアイリスは、祖母の忘れ形見のひとつ。

 扇形に広がる葉のあいだから、すっくと茎を伸ばしてふくよかな姿を次々とみせる。しばらく手入れが行き届かず、もうずいぶん株数が減ってしまったけれど、一昨年あたりから再び気持ちを向けてやると、ちゃんと応えてくれた。

 そう、「植物は嘘つかへん」。祖母の口癖だった。
 祖母はハイカラな花が好きだった。いかにも舶来ものの華やかさが祖母のいたかつての庭にはあった。静かに暮らす祖母の別な一面を垣間見るおぼえがした。
 祖母の好んだ洋花。ラナンキュラス、ダリア、ガーベラ、バラ、そして、ジャーマンアイリス。
 皐月晴れの午後の庭には、もんぺ姿の祖母。やさしい彩りの花々と伸びた草木の葉の間には、身をかがめて草むしりする祖母の背中が見え隠れしていた。そして、祖母の近くには飼い犬のマリも必ずいた。
 小学校から戻ると、ときどき祖母のお手伝いをしたけれど、それはきまってマリの機嫌の良いときだけ。マリは気まぐれに幼い私たちに牙を見せることがあったから。きっと、お婆ちゃんを横取りされると思ったのに違いない。すごく焼き餅焼きだったから。
2009年5月10日 10:49 |コメント0
絵:杉本歌子 プロフィール
1967年2月13日、京都生まれ。京都芸術短期大学美学美術史卒。現在、京都市指定有形文化財となっている生家の維持保存のため、財団法人奈良屋記念杉本家保存会の学芸員・古文書調査研究主任に従事。植物を中心にした日本画を描いている。画号「歌羊(かよう)」。

受け継いだ京の暮らし 杦庵の「萬覚帳」

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