動物の生態を生かした「行動展示」などユニークな方法で、全国的な人気動物園となっている北海道旭川市営の旭山動物園。京都府職労連などが10月6日開いた、植物園・動物園など自治体施設のあり方について考えるシンポジウムで、同動物園前園長の小菅正夫氏(北海道大学客員教授)が動物園の魅力や施設のあり方などについて講演しました。大要を紹介します。

 ──小菅氏は95年に園長に就任。入園者数が落ち込み、廃園の危機の中、「行動展示」が注目を集めるようになりました。
小菅正夫 私が園長になった当時、10人の飼育員は野生動物を守り、研究し、誇りをもって仕事をしていましたが、お客さんが来ません。廃園の危機でした。
 「どこに問題があるのか?」ということで、お客さんに聞き取り調査をしました。すると「面白くない」「クマは寝ているだけ」「キリンは立っているだけ」「水鳥は浮かんでいるだけ」という声が出てくる。
 私たちはそれまで、「動くまで見てない客の問題」と思っていたんですが、このままでは動物の魅力が伝えたくても伝わりません。そして、動物の生態を生かした「行動展示」を始めました。やってみると、多くの人が求めているのは、動物が生き生きと生活・行動している様子を見たいということだと分かりました。
 例えば、ペンギンは、実はものすごいスピードで水中を移動し、魚を捕らえています。狭い動物園の中で智恵を絞り、ペンギンが水中を移動する姿を体感できるように水槽を変えました。自分たちがこれまで研究してきたことに基づく行動をした結果、興味を持ってもらうことができたんです。
 すると東京からマスコミが来るようになり、ペンギンだけじゃなくて、猛獣のオリが頭の上にある、サル山も面白いと取り上げてくれるようになり、お客さんがたくさん来てくれるようになりました。動物はすごい、命はすごいよ、と伝えられたと思います。
 ──廃園危機の中で、動物園のあり方や研究の重要さについて、職員らと考え、議論してきました。動物園のあり方と研究について問題提起しています。
 動物園の歴史や役割を見なおそうと、私たちは、旭山動物園として、「動物園の4つの役割」というものを考えました。その柱は、「研究」「自然保護」「教育」「娯楽」です。
 「教育」では、生物学としての教育はもちろん、命の問題について考えることができるのが動物園だと思います。動物たちの命の多様性や活動について触れることで、教科書では見られない教育になると考えています。
 「自然保護」ですが、自然界で絶滅したトキを繁殖させ、自然放鳥するということがありました。こうした種の保存の役割です。絶滅する前に動物園で保護し、野生に戻していくことがこれから必要になっていくと考えています。
 「娯楽」ですが、これは動物に服を着させてパフォーマンスでゲラゲラ笑うというものではありません。動物園の娯楽とは、人間性の回復だと思っています。動物を見て、動物ってすごいな、好きだなと思ってもらうことで、人間について考えることにつながるのではないでしょうか。
 「研究」はもっとも重要なものだと思います。動物園で研究したことが野生動物保護につながりますし、SARSや鳥インフルエンザなど人と動物の共通感染症問題の発見にもつながります。(「週刊しんぶん京都民報」2012年11月4日付掲載)