“滞納分を分納しているのに、生命保険を差し押さえるなんて。こんな保険料の取り立てをされたら生活できない”─京都市では、門川市政発足後から、国保料を滞納した世帯への財産差し押さえが急増しています。08年、滞納整理に特化した「組織改正」が行われたことが原因です。高すぎる国保料を払えず、暮らしに困る市民から悲鳴が上がっています。(国保問題取材班)

予告もせずに生命保険まで

 「病気の主人がもし亡くなったら、葬式代にしようと思っていた生命保険。こんなものまで差し押さえるなんて…」 有田信江さん(70)=仮名、上京区=は10月末、国保料滞納のため生命保険(簡易保険)を差し押さえられました。
 病気で働けない夫、非正規の息子との3人暮らし。月収は約25万円で、家のローン月10万円の支払いがあります。毎月の国保料1万7000円の全額は払えず、約40万円を滞納しました。
 有田さんは1年以上前から上京区役所の保険年金課「徴収推進」窓口で交渉し、毎月約8000円を欠かさず分納しています。「区役所からもらった納付書で収めていたのに、予告もなく差し押さえられた。こんなやり方はひどい」
 保険だけでなく、銀行口座も差し押さえ対象です。

分納したのに貯金押さえる

 「娘の学費にあてようと思っていた貯金を差し押さえられるなんて…」右京区に住む三輪信雄さん(55)=仮名、アルバイト=は、今年3月、銀行口座の預金17万円を差し押さえられました。三輪さんの月収約10万円と、大学生の子ども2人のアルバイト代などで生活しています。
 三輪さんは3月初め、国保料を滞納したため、右京区役所から納付相談するよう通知がきました。すぐに区役所で国保料の一部約2000円を分納。その2週間後、突然預金は差し押さえられました。
 「相談してお金を払ったばかりなのに、なぜ差し押さえるのか。こんなことをやられたら生活していけません」と怒ります。

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「徴収推進」担当で滞納を整理

京都市の国保料滞納世帯に対する差し押さえ(世帯数と金額)推移 差し押さえ世帯数は、07年度の426世帯から、10年度は1743世帯へ、4.1倍に増加(グラフ)。差し押さえ金額も07年度の1億3000万円から、10年度は4億2000万円へ大幅に増えています。京都市の差し押さえ世帯数は政令市中3番目(表)です。
 08年4月に実施された「組織改正」は、各区役所保険年金課に「徴収推進」担当を新設し、滞納者の財産(不動産、預貯金、生命保険など)調査などを行う「滞納整理嘱託職員」を、28人から62人に増員。その中で、元金融機関職員約20人を採用しました。
 「京都市国民健康保険料徴収率向上対策本部」会議(09年9月)に提出された資料によると、「徴収推進」担当設置などにより、「特に財産調査の積極的な実施」や「更なる徴収対策強化」となったと報告。財産差し押さえを「保険料徴収率向上対策の普遍的な手法」と位置づけ、「取れるべき保険料は確実に確保」し「差し押さえを中心とした更なる滞納整理の推進を図る」としています。

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本庁から差し押さえ指示

 元金融機関職員から滞納整理嘱託員になった東智弘さん(60)=仮名=は、「滞納が続けば、財産調査を行い、場合によっては差し押さえを行うのが市の方針です。でも、役所はサラ金や銀行とは違うはず」と訴えます。
 「例えば、孫のためにと祖父母がコツコツ貯めてくれていた学資保険を差し押さえるのは…」とため息をつきました。
 保険料を滞納していたのは、小学生の子ども3人を持つ30代夫婦。家のローンを払うと手元に残るのは月10万円。月3万円の保険料を払う余裕はなく、滞納がかさんでいました。
 「滞納は整理されても、行政と市民との信頼関係は全く無くなります」
 別の滞納整理嘱託職員(60代)は、前述の有田さんや三輪さんのケースについて「真面目に分納している人から差し押さえるのは信じられない」と驚きます。
 「私の区では、相談に応じてくれる人からは、できるだけ差し押さえしないよう努力している。本庁の指示に忠実になれば、差し押さえは増えてしまう。現場の職員も判断に悩みながら業務をしているんです」とこぼします。
 6月頃に差し押さえ通知が送られてきたという男性(44)は怒ります。
 「仕事が激減した中、子ども3人を育てながら、3万円の国保料は払えません。区役所に何度も行って実情を訴え、差し押さえは執行されませんでした。とにかく高すぎる国保料を下げてほしい」

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高い保険料が問題

 国保の実態に詳しい長友薫輝・津市立三重短期大学准教授(社会保障論)の話 国民健康保険は、社会保障制度です。国保を運営する市区町村は、保険料徴収だけが仕事ではありません。市民の生活実態をよく聞き、健康維持とともに加入者(市民)を納税者、地域の消費者として育てるという視点が不可欠です。
 昨年12 月、「京都国保調査実行委員会」が伏見区で行った国保世帯の聞き取り調査にアドバイザーとして参加しました。調査結果では、国保加入世帯の6割が「保険料が高い」と回答し、3割が保険料などの負担が理由で「受診を先延ばしにした」と答えました。
 この結果から見ても、京都市の国保の最大の問題は、保険料の高さです。この問題には手をつけず、差し押さえをふりかざして保険料徴収を進めるやり方は、社会保障からは遠く離れたやり方です。

「週刊しんぶん京都民報」2011年11月20日付