しんいちのライブな日々

夕暮れのバンドデビュー

 宇治共同作業所の中庭から見える空が紅に染まるとき、一人の女性がバンドデビューを果たしました。女性は藤江美樹さん。作業所の仲間や職員の歌声に、ギター伴奏で彩を添えました。
 「アメイジング・グレイス」「ドナ・ドナ」などおなじみのナンバー。会場も徐々に盛り上がってきたとき、友人が私の耳元でささやきました。「ギターの女の子、実はよく見えてへんし、音もほとんど聞こえてへんのやて。どないして演奏できるのかわからんけど。すごいなぁ」・・・。「?」。時折、笑顔を振りまきながら、体でリズムをとりながら、実にこなれた身のこなしの藤江さん。彼女の姿と友人の言葉がどうしても結びつきません。演奏後、本人と話して友人の言葉がやはり真実であったと知りました。視野が極端に狭い視野狭窄(しやきょうさく)と弱視、聴力もほとんどない状態。相方がギターを弾く、手の動きをおぼろげに見てリズムをとっていたのです。
 職業訓練校の先生の演奏に魅せられ、ギターを手にしました。当時は、視力、聴力ともまだあり、独学で習得できたといいます。2年ほど前から症状が急速に悪化。作業所の職員も辞め、一人では外出できなくなりました。今は、ギターが唯一の楽しみ。「依頼があれば、またやりたい」。“その日”に向け、練習を重ねます。 写真=粋に着こなしギターを弾く藤江さん(左)=