/entertainment/00200_cinema_review/00203_/

ヒトラーの贋札

 第二次世界大戦中のドイツ、ザクセンハウゼン強制収容所。そこに送りこまれてきたのは、世界的贋作師サリー、印刷技師ブルガー、美校生のコーリャなどユダヤ系の技術者たち。彼らは、敵国イギリスの経済を混乱に陥れ、経済的打撃を加えることを企てていたナチスが、「ベルンハルト作戦」と名付けた国家戦略に基づき“完璧な贋ポンド札”を作るために集められたのだった。実際に強制収容所で紙幣贋造に携わったアドルフ・ブルガー氏の著書をベースにフィクションを加え映画化。本年度米アカデミー賞外国語映画賞にノミネート。

 1936年、ベルリン。その秀でた芸術的才能を利用し、ソロヴィッチ(通称サリー)は贋作師としてあらゆる偽造を手がけ商売をしていた。捕まるのを恐れ、同じ場所に長くは滞在しないサリーだったが、ある夜、犯罪捜査局の捜査官ヘルツォークに捕らえられてしまう。連れて行かれたのは強制収容所だった。ヒトラー率いるナチスによるホロコーストが始まっていたのだ。やがてザクセンハウゼン収容所に移送が決まり死を覚悟するが、敵国イギリスへの経済的打撃を目的とする「ベルンハルト作戦」という極秘任務遂行のために、サリーたちユダヤ人の技術者たちを利用しようと集めるためのものだったことを知る。自分たちに課せられた任務は、完璧な贋札をつくること。しかしそれが成功しても失敗しても死が待っていることは明らかだった。ザクセンハウゼンに連れてこられた技術者たちは、別の収容所にいる家族や恋人たちを思い苦悩しながらも、一日でも長く生き延びるためにサリーとともに贋札づくりの作業にとりかかり、完璧な贋ポンド紙幣が完成する。それが軌道に乗ると贋ドル札をつくることを強要されるが、やがて戦況が悪くなり…。

 戦争は、多くの人々の死によってのみそれが語られるものではないのだ。生き延びても心に傷を負い、人生を大きく変えられる。ナチスによるユダヤ人虐殺の歴史は、広く知られているが、一方でそのユダヤ人たちを国家戦略のために利用もしていた。
 この作品は、映画の中にも出てくる印刷工アドルフ・ブルガーが、実際に「ベルンハルト作戦」にために働いた経験を基に書いた著書「THE DEVIL’S WORKSHOP」が下敷きになっている。この「ベルンハルト作戦」は、現存する資料によりその実態が詳細に判明しているということだが、そこに従事したユダヤ人たちの苦悩は、こうした“声”でしか知ることはできない。語り継がれる限り、その声に耳を傾け続けたい。(京都シネマ・横地由起子)

twitterでコメント

作品情報

  • 出演:カール・マルコヴィクス、アウグスト・ディール、デーヴィト・シュトリーゾフほか
  • 監督:ステファン・ルツォヴィッキー
  • 脚本:ステファン・ルツォヴィッキー
  • 音楽:マリウス・ルーラント
  • 製作年:2006
  • 製作国:ドイツ・オーストリア合作
  • 配給:クロックワークス
  • 時間:96分
  • ジャンル:劇映画
  • 原題:THE COUNTERFEITERS
  • 公開日:08/01/26
  • 京都シネマの上映情報
コンテンツ企画協力:京都シネマ