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小津の秋

 野村惠一監督の「二人日和」に続く最新作。出演は「二人日和」の藤村志保、栗塚旭に沢口靖子が加わり、深まりゆく秋の蓼科高原を舞台に三人の織りなす心の綾を丹念に描いている。野村監督が小津安二郎ゆかりの蓼科高原の秋に触発され、小津監督が仕事場として使った蓼科の別荘「無藝荘」を舞台に撮影を敢行、茅野市内各所でオールロケして完成した作品。
 新聞記者の佐々木明子は、取材で蓼科を訪れた。「縄文のヴィーナス」の取材もあったのだが、実は探している人に会えるという予感があって、父の遺品を携えてきたのだ。高原のホテルには秋の気配が立ちこめ、湖には色づいた木々を映し出していた。下の街では映画祭の準備で人々は慌しく動いていた。
 ホテルの支配人の案内で、無藝荘の守役の吉岡園子に偶然にも出会い、亡き父の過去を追うことになる…。
 映画「二人日和」で監督の地元でもある京都を舞台に、老夫婦の深い愛情を静かな時間の流れの中で描いた野村惠一監督。今回は蓼科に舞台を移し、昔愛した人への想いを心にしまいこみ日々を送る女性とその人の娘との心の交流を、優しい視線で描いている。
 両親への愛情から複雑な想いを募らせる新聞記者役を久しぶりに映画出演を果たした沢口靖子が、彼女を最初は避けながらも受け入れ、心にしまいこんだ日々を語る無藝荘の守役吉岡園子を藤村志保が演じる。二人の心の中にあるはずの熱い想いや激しい葛藤も、蓼科の静かで優しい風景が包み込んでしまうようだ。また、園子を長年にわたって深い愛情で見守り続け、あたたかいまなざしで二人を見守るホテルの支配人を、「二人日和」で藤村とコンビを組んだ栗塚旭が落ち着いた演技で支えている。
 この作品には、小津安二郎がその名を付け、数々のシナリオを書いた「無藝荘」やラストには「東京物語」を彷彿とさせるシーンなど、野村監督の小津監督へのオマージュが込められている。(京都シネマ・横地由起子)
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作品情報

  • 出演:藤村志保、沢口靖子、栗塚旭
  • 監督:野村惠一
  • 脚本:井上大輔、小笠原恭子、野村惠一
  • 音楽:主題歌「水鏡」関口由紀
  • 製作年:2007
  • 製作国:日本
  • 配給:野村企画
  • 時間:92分
  • ジャンル:劇映画
  • 原題:小津の秋
  • 公開日:07/12/22
  • 京都シネマの上映情報
コンテンツ企画協力:京都シネマ