掛け声かけましょ

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 「音羽屋ッ」「成田屋ッ」「高麗屋ッ」
 初めて歌舞伎を見に行ったとき、客席のあちこちから声が飛んだ。ありゃなんじゃ?
 役者には屋号というものがあって、贔屓にかける声援だと知ったのは後のことである。芝居も面白くて目が離せないが、どんな人がどんなふうにかけているのだろう? 声のする方を左見右見(とみこうみ)したものだ。上品な能などと違って、歌舞伎は心が動けばすぐに身体で反応する。胸のうちから沸き上がった興奮をほとばしらせるのは自然なことだ。音羽屋を耳で聴くと「わやッ」、成田屋は「たやッ」。何のことはない、ほとんど同じ。中村富十郎の天王寺屋は「のじゃッ」。六代目歌右衛門や十三代目仁左衛門などは、声がかかるとノッてくるのがはっきりと分かった。この掛け声、東京では「大向う」といって幾つか公認の会があるという。いわばプロの集団で役者から御祝儀が出るらしい。「今のは何だい。大事な所でツボをはずしちゃってさ。ああ、今日は藤四郎(とうしろう:「素人」の意)が多いからしょうがねえか」などと耳にしたことがある。ことほど左様に、江戸では粋やイキを重んじて、掛け声も短く早い。けれどお約束どおり、規格どおりにかける掛け声はどことなく冷たい感じがする。つまらない。散文的すぎるといってもいい。関西では初音会のみ。その手の商売を毛嫌いする土壌があるのかとも思う。
 上方では、お追従で掛けたりはしない。本当に嬉しくて感激した時にだけ、思わず声をかける。そうそうあれは、鴈治郎の「紙屋治兵衛」だった。「魂抜けてトボトボと」と花道を歩く紙治に、「がんじろはーん」と声を上げた老婦人があった。これは、効いた。いや、効いたなどというものではない。役者と客席が、真っ向から繋がった幸福な一瞬だった。皆様どうぞ掛け声を。(挿絵 川浪進)

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08/06/02│歌舞伎のツボ

コメント

よっ 春香さん!

いやあ、いつも素晴らしいシーンを再現してくださいますね。

役者と客席が心から繋がる、そんな場にいて幸せでしたね~。
「がんじろうは~ん」お互いぞくぞくしたでしょう。

ある日、恥ずかしながらステージで唄ったとき、「○○○ちゃ~ん」と、同僚が間奏で声をかけてくれました。
恥ずかしながら、うれしかった。

歌舞伎と比較するのは、とんでもなく、ごめんなさい。
でも、背中を押してくれるのが、声援ですね。

あ、川浪画伯の絵、今回も素晴らしい!

それと、黙って読んで居られる皆さん!!

春香さんにお声をかけてくださいね!

お春さん

あたしゃ、「藤四郎」ですので...ウフフ ...歌舞伎の掛け声が、東と西でそれほど違うというのには、ビックリ!

本当に掛け声をかけていいんですか?

サッカーでは、サポーターのことを12人目の選手と言います。(言うまでもないか....!)でも、声援ばかりじゃなくて、ブーイングってモンもあるのですが、歌舞伎ではブーイングなんて考えられないんでしょうね。

本当に嬉しくて感動したときだけ、思わず.....ですね。

よおし、掛け声かけるゾ!!ウフフ。