馬酔木
馬酔木
北国の、雪の気配さえ漂わせた「鈴蘭」の白く清楚な、つつましい姿に心惹かれていて、この花のたたずまいに立ちどまることはなかった。
奈良を訪れた堀辰雄は「どこか犯し難い気品がある。それでいて、どうにでもしてそれを手折ってちょっと人に見せたいような、いじらしい風情をした花だ」と記している。
銀閣寺近くの白砂村荘の庭園を道の続くままに辿っていると、この花がおちこちに咲いていて、春の華やかな趣とは別の風情を醸し出していることに気づかされた。
雲の往き来に、一瞬、春陽がこの花にふりそそいだとき、堀辰雄の言おうとしたことがわかった気がした。古木のゆえか、樹幹の屈曲もよい。