桃
清新な印象のする梅にくらべて、濃厚というか桃は優婉ともいうべき気配を漂わせている。さらに、どこか幻想的な感じもする。そのぽってりとした花の漂わす情趣は、やはり女の節供である雛祭りを象徴する花としてふさわしい。
「春の園 紅にほふ 桃の花 下照る道に 出で立つ娘子」という大伴家持の歌は、万葉人の桃の花に対する心情そのものだったろう。
桃は生命力の横溢する木であり、花も実も不老長寿を託されていた。昔話の桃太郎の鬼退治もそんな桃への思いを映している。
秀吉の築いた伏見城が荒廃した後、一帯は桃の花で埋まったという。伏見桃山という地名の由来らしい。
京都御苑の桃林に咲く花を朧げに霞む御所の正門である華麗な建礼門がひきたてている。