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悲しみが乾くまで

悲しみが乾くまで

 デンマークの監督スサンネ・ビアのハリウッドデビュー作。これまで、「ある愛の風景」や「アフター・ウェディング」など数々の映画賞にノミネートされる作品を撮ってきた監督だが、「アメリカン・ビューティー」でアカデミー賞を受賞した、サム・メンデス監督の目にとまり、アメリカ進出を果たした。
 最愛の夫を亡くした妻が、夫の親友である男性と心を通わせ、やがて立ち直ろうとする姿をゆっくりとした時間の中で描き出した、「喪失」と「再生」の物語。
 主演は「チョコレート」で黒人初のアカデミー賞主演女優賞を受賞したハル・ベリー。夫役には実力派のデヴィッド・ドゥカヴニー。夫の親友役に「トラフィック」でアカデミー賞助演男優賞を受賞したベネチオ・デル・トロなど存在感あふれる俳優陣が集結した。
 オードーりー(ハル・ベリー)は、夫のブライアン(デヴィッド・ドゥカヴニー)と二人の子どもに恵まれ、幸せな日々を送っていた。しかし、ある日路上で暴力を振るう男を止めに入りブライアンは射殺されてしまう。葬儀の準備のさなか、オードリーは夫の親友ジェリーを思い出す。二人は幼馴染みでかつては優秀な弁護士だったが今は麻薬に溺れる生活を送っていた。そんな彼をブライアンは見捨てることなく、時折訪ね親身に世話を焼いていたのだ。ジェリーを葬儀に呼んだオードリーは、ジェリーのブライアンに対する思いを知り、子どもたちとも打ち解けたジェリーに、同居を申し出る。ジェリーはブライアンの死をきっかけに、薬物依存から立ち直ろうと断薬会にも通い始め、二人の子どもたちにも慕われるようになるが、大きな喪失感から抜け出せずブライアンの死を受け容れることができずに苦しむオードリーは、ジェリーに八つ当たりをしてしまい、家を出て行くように告げる…。

 京都シネマでは、スサンネ・ビア監督の「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」を上映してきました。彼女の作品に共通するのは「家族」。本作品にもその「家族への愛情」が溢れています。思いもよらない出来事によって、大きな傷を抱えることになった主人公。その心の「再生」を描いています。埋められることのない喪失感に絶望しながらも、生き続けていくためには心を通わせる仲間(家族)が必要だということを感じさせてくれます。だから立ち直れると。オードリーとジェリーは、ともにブライアンを失い心の中にぽっかりと空いてしまった穴を、ゆっくりゆっくりと埋め合っていきます。ハル・ベリーとベネチオ・デル・トロの繊細な演技に、思わず彼らと同じ時間を共有しているような思いがします。(京都シネマ・横地由起子)

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作品情報

  • 出演:ハル・ベリー、ベニチオ・デル・トロ、デヴィッド・ドゥカヴニー ほか
  • 監督:スサンネ・ビア
  • 脚本:アラン・ローブ
  • 音楽:ハン・セーデルクヴィスト
  • 製作年:2008
  • 製作国:アメリカ
  • 配給:角川映画、角川エンタテインメント
  • 時間:119分
  • ジャンル:劇映画
  • 原題:THINGS WE LOST IN THE FIRE
  • レーティング:PG-12
  • 公開日:08/04/05
  • 京都シネマの上映情報
コンテンツ企画協力:京都シネマ