一人語り

*

一人語り どして海老さまはこんなにいい男なんでしょ。よだれが出るくらい。貴女、そうお思いになりません? 可笑しいでしょ。こうみえても、わたくし八十二になります。お若い、矍鑠(かくしゃく)としている? ご冗談ばっかり。もう、立派なお婆さんですよ。はあ、この派手なピンクのスーツは皺隠し。暗い色を着ると影が目立ちますでしょ。
 ええ、病院通いも毎日ですけれど、それが貴女、こうやってお芝居に参りますと腰がぴんと伸びて元気になるんでございますよ、本当に。今月も、ああ、海老さまに逢えると思うと、お恥しい話ですけれど、一週間も前からそわそわ、浮き浮き。何を着て行こうか、指環、耳輪、首飾、手提鞄はどれにしようか、靴は勿論おろしたてでと、まるで子どもの遠足を待つような日々でございます。
 歌舞伎には、それはもう娘の頃から通っておりますですよ。十五代目羽左衛門や六代目菊五郎など、幼心にはっきりと覚えております。でもね、戦後すぐの海老さまを見た時のあの、雷に打たれたような衝撃は忘れられない。わたくしも若うございましたし、一途に思い詰めて、せっせと劇場に日参いたしました。一等席を一回じゃ物足りず、三等席を幾枚も買って、呆れ顔の親を後目に出かけたもんです。けれど海老さまが十一代目團十郎を襲名して悦んだのも束の間でございました。その余韻も醒めやらぬうちに、儚(はかな)くなってしまった時は惘然。泣きました。咲き誇った牡丹が一時に散った気がいたしました。落涙。
 でも長生きの余祿でしょうか。そのお孫さんがマア生写しじゃぁございませんか。十一代目さんは骨太、今の海老さまは優男の違いはありますけれど、美男ここにありというお顔は同じ。神や仏が海老さま贔屓を憐れんで、差遣わして下さったのだと信じておりますですよ。今わたくしは幸せ。理屈抜きの幸せって、殿方にはお分かりにならないでしょうけれどねえ。ホホホ。(挿絵・川浪進)

*
08/10/03│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

お春さん、

あらま、ビックリ!今週は2回も掲載ですか?!こりゃ、大変!でも、週の半ばで、今日のお春さんの新作を見つけて、なんか、得した気分でさぁ!ウフフ♪

「一人語り」メチャクチャ面白かった♪
いつもとは一味違っていて、またまた、お春さん、大したモンダ!

あたしゃ、生徒達に186歳って自己紹介してるんざんす。ピンクのスーツが皺を隠すんですか?この方を見習って、これからはピンクで教壇に立ちやしょう!

海老蔵さん、いいオトコ。全く、同感でさぁ!理屈抜きの幸せ、イッシッシ♪

毎週、金曜は映画を観る日。今夜は海老蔵さまの「出口のない海」でも観やしょう♪あたしも、腰がピンと伸びて、元気印になりやしょう!

海老蔵さまのお化粧の挿絵、またまたステキ♪ご自分でお化粧なさるんでしょうか?

急に寒くなって、油断して、風邪を引きやした。鼻水ベチャベチャで授業をやりやした。マスクをしても、鼻水がたれてきて、みっともないったらありゃしやせん。

お春さんも、風邪にご用心!

春香さん

そうです!!
幾つになっても美しい者に憧れる気概がないといけません。

我が母、ある作家にお引き合わせしたところ、すっかり娘はかすんでしまいました。
銀髪ながら、薄紫のパンツスーツ、なにより表情が活き活きとして、瞳はキラキラ乙女のようです。
「恋多きあなたを恋する作家より」という文を、後日言付かりました。

こんどは海老様の歌舞伎へ連れて行ったら、わ~どうなることでしょう。

コメントを投稿

コメントは、京都民報Web編集局が承認するまで表示されません。
承認作業は平日の10時から18時の営業時間帯に行います。


メールアドレスは公開されません