色にもいろいろありまして

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 「助六の出端(デハ)はすばらしいですね」 著名な歌人が教育テレビで話を続けている。「あの緋色の下帯に、震いつきたいくらいの色気を感じます。ほら、傘を片手に足を割ると見える…」会話が煽情的に傾き、アナウンサーはすぐに話頭を転じてしまった。お堅いNHKだから仕方がない。話の腰を折られた歌人は、それはないでしょうという顔をした。
 歌舞伎ではラブシーンのことを色模様という。さらに際どいものを、濡れ場と称する。上方では障子を立てて露わな姿態を影絵にしたり、女形の着物の裾から手を入れて、「濡れてるがな」などと言ったこともあったらしい。「忠臣蔵」の七段目ではお軽と由良助の痴態がある。九つ梯子を降りる件で「舟に乗ったようで怖いわいなぁ」というお軽に「舟玉(ふなだま)様が見える」と由良助が軽口を叩く場面である。そのあと「洞庭の秋の月様を拝み奉る」と続く。舟玉や洞庭はともに女陰のことをさす。船の守護神である船霊も、瀟湘八景で知られる洞庭湖の絶景も、崇め奉る大切なものだったに違いない。江戸の庶民の教養を垣間見ることができて面白い。
 昭和25年の邦画「また逢う日まで」は、ガラス越しのキスシーンが話題だった。歌舞伎では抱擁や接吻をあからさまに見せない。見せずに間接的、暗示的に表現する。例えば、立身(たちみ)で背中合わせに手を取り合ったり、女が男の膝に手を置いたりするのがその典型である。忍び逢う男女が姿を隠し、暫くしてから、女が身繕いをしながら出てくる。この手の演出は、そのものずばりより、かえって挑発的といえる。
 戦後文芸裁判となった「チャタレイ夫人の恋人」は、×××という伏せ字が話の種になった。それを深読みして、胸をときめかせた人も多かったらしい。解禁になると、拍子抜けするほどつまらなかったという。想像力に深く頭を垂れるしかない。(挿絵・川浪進)

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08/09/08│歌舞伎のツボ│コメント2

コメント

お春さん

「舟玉」に「洞庭」ですか!江戸時代の庶民の識字率は世界一と聞いた事がありますが、なるほど、凄い!

ところで、「洞庭」って、何て読むのでしょう?ゴメンなさーい。教養が無くて。

この頃、年のせいか、映画でも余りにも濃厚なラブシーンには、思わず目を覆いたくなるのですが、歌舞伎は奥ゆかしいのですね。

最も、映画でも最近は激しいラブシーンは少なくなってきたような気がするのですが....。   何何?若い頃とは観る映画が違ってきたんだろう?って?ウフフ。

お春さんは「タイトル」まで、よおく吟味されているといつもつくづく感心しています。

お春さん、今度、今流行の、そう!あの言葉!「あなたとは違うんです。」でお書き下さい。

ん?ダメ???「あなたとは違うんです。」って?ウフフ。 やっぱり!

それにしても阪神はどうしちゃったんでしょうね?!御地のみなさん、阪神タイガースは今や全国区でっせ!私は江夏や田淵が活躍していた、学生時代からのファンですが.....。

今日の挿絵も(毎回ながら)色がステキ♪

春香さん

文字人間の私めは「およよ」と驚き、恥じらいました。

まあ、歌舞伎の世界は奥深く、色っぽいのですね。

最近の洋画のラヴシーンより刺激的なお言葉で、おどろきました~!

さて右上コーナー『歌舞伎まめ知識』も更新されたのですね。
そうそう、役者の紋も粋ですね。
團十郎さまの紋もやっと解りました。

今回も、たくさんのお教えありがとうございました。

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