やなぎ
春風に揺れる柳の枝は、やわらかな緑を風に溶け込ませるようにして、あくまでたおやかです。その風情は美しい女性のあで姿にたとえられてきました。
柳の芽の萌え出た細長い眉を「柳眉」、細くしなやかで魅力ある腰付きを「柳腰」などと表現されます。かつて歓楽街には柳と桃が植栽され、「花柳界」とか「柳暗花明」という言葉が生まれています。
京都で一番古い廓である島原にかつて賑ったという面影はありません。わずかに往時をしのばせているのが廓の東にある大門で、好いた女性に思いを残して、帰り際に振り返ったことから「見返り柳」と呼ばれた枝垂れ柳。未練を断ち切るように帰る「さらば垣」と呼ばれた結界としての垣根が残っています。
平安京の羅生門上から眺めたという素性法師の歌に「見渡せば花も柳もこきまぜて今ぞ都の盛りなりける」があります。三条通白川あたりの柳など古都の春に柳の醸し出す情緒は今もかかせません。