しんいちのライブな日々

ファイン・アンド・メロウ

 前回の市川修さん追悼のライブの続きを書く。その日の主役は、連れ合いのジャズヴォーカル・市川芳枝さんだった。清楚な真っ白のドレスで登場。ほのかな明かりの客席から舞台に上がるまでのシルエットが既に絵になっているナ~。
 MCでは、やわらかい声なのに、歌い出すと雰囲気がガラッと変わる。「タイム・アフター・タイム」でまずは序走。「ジョージア・オン・マイ・マインド」では腹の底からしぼりだすような声でグイグイとシャウトしてきた。
 圧巻は、セカンドステージの「ファイン・アンド・メロウ」だった。ビリー・ホリディ作曲の代表作。歌詞はどうしようもない最低な男を歌っている。観客は誰しも生前破滅的な雰囲気を漂わせていた修氏を頭に描いたに違いない。栄達など全く眼中になく、ストイックなまでに音楽を追求した彼。家庭生活が順風満帆であったはずがない。周りをハラハラさせた時期もあった。それだけに、芳枝さんの苦労は想像に難くない。それでも彼女は彼を支えた。「愛さずにはいられないどうしようもない男」を夫として。
 歌っている芳枝さんが自分の世界に入っていくのがわかる。最後に目から一筋の涙がこぼれるのを見た。凡人には到達し得ない深遠なラブソングだった。

執筆者:平山