散り椿
散り椿
古代人にとって椿は神聖で繁栄、魔除けを意味する花木であり、『万葉集』にも「巨勢山(こせやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲(しの)はな 巨勢の春野を」などと歌われてきました。それは素朴な赤色が美しい薮でした。
京都の社寺に古くからの銘椿(めいちん)が数多いことからも椿という花木へ寄せる人の思いをうかがい知ることができます。
花の色や形、大きさなど多様で多彩な品種群の発祥は室町時代のことといわれ、園芸熱が盛んだった江戸中期にはその数220余種に及んでいました。
一条通の紙屋川のほとりにある地蔵院は”椿寺”とも呼ばれています。日本画家の速水御(ぎょ)舟の描いた「名樹散椿」は幻想的で妖しいまでの美しさを誇った五色散椿で知られています。
書院前にあったこの椿は、惜しくも枯れ、今はその子椿が本堂の前にあって、はらはらと、色とりどりの花びらを散らしています。