京都民報
なるほど京都

京のお人形

人形寺・宝鏡寺学芸員が語る、京のお人形話あれこれ。

著者:田中正流

招きねずみ

天児 そろそろ年賀状の準備を始めている頃でしょうか。平成20年の干支は「子(ねずみ)」ということで、民営化された郵便事業会社では、ネズミのキャラクターで世界的に人気のあるミッキーマウスの年賀状が販売されました。干支は本来、十干(じっかん)と十二支を合わせた60通りの組み合わせがあり、江戸時代には年や日付として一般的に用いられてきましたが、五行思想とともに十干が忘れ去られ、動物イメージが付与された十二支のみが現代にまで残っています。
 子(ねずみ)は「干支はじめ」や「干支かしら」と呼ばれ、子から始まる十二支の動物をお正月に飾り、新年を祝う習慣があります。中国の書物である『漢書』律暦志によると「子」は増えるという意味で、新しい生命が種子の中に萌(きざ)し始める状態を表しているとされています。急激に数が増えることを「ねずみ算式に増える」と言うことがあることから、子宝や五穀豊穣などの福を象徴しています。
 写真の「招きねずみ」は、以前に紹介した猪と同じく伏見人形で六代目丹嘉の制作となります。右手を挙げ、首輪に鈴、よだれかけをして、白い体には黒い斑があり、一般的な招き猫の姿を模して作られていることがわかります。ちなみに右手を挙げているのは金運や福、左手を挙げているのは人や客を招くという説があります。
 他にも代表的な人形として、ねずみが七福神の中の大黒天のお使いであることから、俵とねずみを題材にした「俵ねずみ」があり、五穀豊穣や家内安全の御利益があるとされています。また唐辛子を持った「唐辛子とねずみ」の人形は、唐辛子には種が多いということから子宝を願い、邪気も祓え、この人形を踏んで旅に出ると疲れないという迷信もあります。
 現代では、電子メールや携帯メールが普及し、年賀状をメールですます人も多くなってきました。新年の挨拶や贈り物という概念の変化だけではなく、年賀状の図案として多く使われていたその年の十二支の動物を知らない人も多くなるのではないでしょうか。ましてや「○○年(どし)生まれ」のような言い方をすることもほとんどなくなり、そうなると生まれ年の動物を聞き、それにより年齢を偽っていることを見分けるということもできなくなるのでしょうね。

写真:招きねずみ 六代目丹嘉作 宝鏡寺門跡所蔵