京都民報
なるほど京都

京のお人形

人形寺・宝鏡寺学芸員が語る、京のお人形話あれこれ。

著者:田中正流

鞍馬寺「福虎の土鈴」

福虎の土鈴 本年も十月二十二日には、京都三大祭の一つである時代祭が開催されます。今年の見所として、源氏物語千年紀ということで新調された紫式部の小袿や、ミス・インターナショナルの各国代表の女性六十人が京都の活性化のために列の外を歩くことなどが話題となっています。
  この同じ日に、時代祭の華やかさとは比べられないが、勇壮な祭りが夜の鞍馬の地で開催されます。京都三大奇祭の一つ京都市左京区鞍馬本町で行われる「鞍馬の火祭」です。由岐神社の秋の例祭で、平安時代に御所で祀られていた由岐大明神が御所の北方にあたる鞍馬の地に、天下太平と万民幸福を祈念して遷られる際に、沿道でかがり火を焚いて勧請されたという故事に因みます。
  この鞍馬の地には、もともと京の都の北方の守護として鞍馬寺があり、四天王の毘沙門天が祀られていました。鞍馬寺の開創には諸説ありますが、鑑真和上の高弟である鑑禎(がんてい)上人が霊夢で白馬に導かれ鞍馬山に登り、鬼女に襲われたところを毘沙門天に助けられ、それが寅の月、寅の日、寅の刻であり、山上に毘沙門天を祀った草庵を結んだといいます。そのため仁王門や本殿金堂前には神使として狛犬ならぬ狛虎が守護しています。
  その虎を題材にした土人形は今までに多種作られてきました。その内の一つが現在でも授与してもらえます。写真の福虎の土鈴になります。黄色の身体に、黒の横縞、眉毛をキリリと凛々しくも愛嬌のある顔つきの虎は、境内の狛虎と同じく「阿吽(あうん)」になっています。「阿吽」の「阿(あ)」は口を開いて最初に出す音、「吽(うん)」は口を閉じて出す最後の音であり、そこから宇宙の始まりと終わりを表す言葉とされています。また転じて二人の人物が呼吸まで合わせるように共に行動している様を「阿吽の呼吸」「阿吽の仲」などとも呼びます。
  この二匹の虎も仲良く寄り添った阿吽の仲なのでしょう。この虎の土鈴は振るとコロコロと優しい音がします。鈴を鳴らしてあらゆる厄を祓い、しっかりと福を呼び込みましょう。
  プロ野球のクライマックスシーズンも始まりました。阪神タイガースファンの方はこの鈴を片手に応援してはいかがでしょうか。

写真:鞍馬寺「福虎土鈴」 筆者所蔵