京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ワゴレ(わごれ)

 「ワゴレ」はあなたの意であって、「ワゴリョ」(吾御料)が訛(なま)ったものといわれる。主に、目上の者が目下の男女に対して用いたことからはじまったものらしい。文献では、安永4年(1775)の『物類呼称』に「他をさしていふ詞(ことば)に、畿内及出雲、若狭辺にてわごれと云」とあり、安永9年(1780)の「新版歌祭文」に「もう二十年おれが若いと、わごれにはぐつと馳走もあれど」とでてくる。全国的な方言範囲は狭く、京都市周辺部の大原で、「ワゴレ」を使うが「ワゴリャ」ということから、この語の歴史的な音変化がみられる。  雑俳ではどうかというと、「あほうらしい わごれは独活(うど)の大食いじや」正徳5年(1715)、「せばいもの その帯でわごれがぶたはかくされまい」享保14年(1730)などとある。この「ワ」(吾)という自称が他称へと変化するのは、英語ではみられないが、「自分(あなた)はどう思う」などという日本語の特徴であろうか。