京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

カントニ(かんとに)

 失われつつあることばに、「カントニ」がある。「カントニ」は関東煮であって、関東風に煮込んだ俗にいうおでんのことである。ただ、京都では、「カントウニ」とか「カントウダキ」とはあまりいわない。そして、おでんといっても、豆腐やこんにゃくをさして焼いた田楽(でんがく)のことではない。同じ豆腐やこんにゃくであっても、はんぺんとかがんもどきや大根などに独特の味をつけて煮こんだものである。一口にいえば、焼くのと煮るのとの違いがある。江戸後期にみられる江戸人からみた『柳多留』では、「どぶ六の尻をおでんがあっためる」とあるが、これはおそらく「カントニ」のことであろう。  上方雑俳でみると意外に古く、「くはんとう煮 酒でたはひのない坊主」と享保中期(1725年ごろ)からみられ、「姫好きの蛸(たこ)でお寺も関東煮」明治27年(1894)とでてくる。しかし、この「カントニ」は消えつつあって、京都でも関東的に「オデン」というようになった。