京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

イッチ(いっち)

 「イッチ」とは、一番とかもっともの意である。この語は、京都市内ではほとんど用いられなくなったが、京都市周辺では現用されている。「イッチ、そこを考えてナー」「イッチ上の姉ドスニャワー」と用いるのである。その使用地域は、北部では舞鶴市、福知山市、南部では醍醐、木津町と最近の調査で確認されている。柳田国男氏が述べられた方言周圏論的な現象が、ここにみられる。語源は、一という「イチ」を強調し、促音化したものであろう。時代は古く中世からといわれ、慶安3年(1650)の『かたこと』に「いちといふべきを、いつち」とある。  雑俳でみてみると、「鼻が高い いつち姉めでござります」弘化2年(1845)、「惚(ほれ)ている わたいはいつち金さんに」明治26年(1893)、「捨て兼(かね)て 異見はいつち下手な親」明治30年(1897)などとある。大正年間に書かれた長田幹彦の小説『祗園』にも、「イッチ」は会話の中によくでてくる。