京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

イカ (いか)

 「イカ」というのは、正月での遊戯具たこのことである。おもに、男の子がお正月に空へあげて、競い合ったものであった。もちろん、この語は海でとれるいかの形に似ていることからでた。安永4年(1775)の『物類称呼』には、「畿内にていかと云、関東にてたこといふ」とある。しかし、京都でもいつごろからか「タコ」というようになった。
この経過を京都での雑俳でみると、「きりきりと尾が落ち廻る紙蔦(いかのぼり)」元禄7年(1694)、「ふうわりと 東寺へ散つた鬼の鳳巾(いか)」宝暦3年(1753)などとあるのが、明治36年(1903)には「ちつときて 尾のない凧(たこ)が雀追ふ」となる。
これには、明治34年(1901)にできた東くめ作詞、滝廉太郎作曲の小学唱歌「お正月」の影響が強いと考えられる。文部省唱歌での「凧(たこ)あげて」が、いつのまにか「イカ」を「タコ」に変えてしまったといえる。