京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ホイナイ (ほいない)

 「ホイナイ」は本意なしからきた語で、平安時代の『竹取物語』や『源氏物語』にもでてくる。ただ、本意なしで残念だという意から、京都のことばとしては(A)はかないとか(B)ものたりないの意として使われるようになった。この方言的な意味への変化はさほど古くからではないらしい。「年若いのに亡くなられて、ホイナイことドシタナー」とか「里から送ってきた物で、ホイナイものドスけどどうぞ」などと年配層では使用される。
 雑俳でこの経過をみると、(A)の意では「本意なさの 後姿にしばし秋」文化初年(1804~)、「本意ない事 位牌(いはい)に成功咄(ばなし)する」と明治43年(1910)の句があり、(B)の意では「旅づかれ 女房其(その)夜をほいながり」文化13年(1816)、「本意ない事 一冊たらぬ人情本」明治43年(1910)などとみられる。現在では、(A)の意のはかなさと、(B)の意でのものたりないとが併用されているといえる。