京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ハシリ(はしり)

「ハシリ」とは、台所にある流しのことである。そして「ハシリモト」は台所の水の流れる元(もと)、つまり今の水道の蛇口の下をさす。現代の住居ではあまり使われなくなったことばだが、昔は今のキッチンのようでなく、はなれて台所があった。横に井戸やポンプがあって、たえず料理などに使う水を流したものである。語源は、食器などを洗ったあと、その水を台の隅の小穴から下へ走り流すことからいう。天保11年(1840)ごろの「大阪、江戸風流ことば合せ」に「大坂にてはしり、江戸にてながし」とある。  このころの雑俳をみると、「とれたとれた手偏に走(はしり)の垢で手が汚れ」天保4年(1833)、「どつさくさ、手偏に走元(はしりもと)皆尻からげ」天保15年(1844)とあり、明治になって「春じゃなあ 小袖のままではしりもと」明治34年(1901)となる。「ハシリ」の方言範囲は広いが、現代的なキッチンでは失われつつあることばといえよう。