京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

ハイラズ(はいらず)

 「ハイラズ」とは、金網を張った食器戸棚のことである。どうも、江戸中期ごろからこの食器戸棚はでてきたものらしい。語源は、小さな蝿も入らないような細かい金網を張ったことによる。そのため、洗った食器を入れて乾かすのに便利で、戸棚の一部分を占めていた。現代ではほとんどガラスの戸棚にかわっていて、食器の乾燥器ができたキッチンでは不要のものとなった。明治19年(1886)の「東京京阪言語違」には「はいらず(京阪)、ねずみいらず(東京)」とある。  雑俳資料でみると、「新茶屋の蝿不入(はいらず)けふも伊達が透き」安永8年(1779)とか「よい肴(さかな)蝿不入に有り噺(はなし)好き」寛政11年(1799)とでてきて、「なんでもほしい 蝿不入(はいらず)さがす茶碗酒」明治33年(1900)などとある。方言範囲は意外と狭く近畿あたりに限られているようであるが、ねずみいらずとよぶより「ハイラズ」といったほうが上方的でよい。