京都民報

京のことば

今ではあまり聞かれなくなった京ことば。京ならではのことばと意味を紹介します。

木村恭造(「京のことばを残す会」助言者)

エンバント (えんばんと)

 さて、京ことばに「エンバント」がある。語の意味は折あしくであって、「エンバント、今日は主人が出かけてますニャワ」などと使用する。文献では、享保12年(1727)に書かれた『志不可起』に、「ゑんば、北陸筋の詞(ことば)に最中の義を云」とある。この「エンバ」が「ウンバト」に、そして「エンバント」へと音転したといわれるが、その意味が最中から折あしくへの意に転移した説明がない。ただ、滋賀県水口町の方言集に「エンバ(ン)とは農繁期」とある。そこで私が聞いたところ、江戸期には早朝から夜遅くまで労働をしいられた農家では、農繁期の最中に来客があっても「エンバ(縁端)」という土間での応待がやっとだったという。意味の転移はこのあたりにあると思う。
 雑俳資料では、明治36年(1903)ごろになると、折あしくの意で「ゑんばんと 車夫が病(やむ)でる花の頃」などの句がでてくる。京都市と周辺部、京都府北部の高年層で使用されている。