栗だけを取り上げてみれば、日本各地に名物の栗があり、栗だけを使ったきんとんにも美味しいものがたくさんあります。それではなぜ京菓子で“栗きんとん”なのでしょうか。その答えは「地産地消」なのです。すなわち丹波大納言の粒餡、蜜漬の丹波栗、山陽道から送られてくる備中岡山の白小豆を使った白餡、この三者の味の融合が京菓子独特の栗きんとんの味をつくっているのです。
京都で加工されて香り高く、あっさりした白餡になった白小豆、裏濾しした蜜漬栗を練り合わせた栗餡をそぼろに出し、たっぷり蜜を含んだ粒餡に付けて出来上がり。他所では真似できない贅沢なきんとんです。
見たところ栗はどこに入ってるの、と言われる程シンプルなきんとんです。お茶の席では栗きんとんと言えばこれです。
栗のイガが割れて中の実が見えている姿を写したきんとんです。それを栗と呼ばず、鶴などおめでたい鳥になぞらえ、多産豊穣をあらわす銘にしてあるところが京菓子らしい点です。
つぶ餡をきんとんで包み、蜜漬の栗が乗っています。栗と餡、きんとんと、三つの風味と食感が楽しめるお菓子です。
一般の方にはこちらの方が人気があります。
「苫屋」とは、菅(すげ)・茅(かや)などを編んで屋根を葺いた粗末な小屋のこと。
見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ
と
定家が詠んだように、秋の物寂しさをいっそう引き立てる景物といえましょう。
平たく伸したこなしで栗餡を巻き、決められた長さに伸し、屋根の形の三角形にかたちづくり、小口切りにして使います。
こなしの色、中の餡を変えることで晩秋まで使えます。
口に入れると、こなしのねっとりとした食感とやわらかい甘みの中から、栗の風味が広がり、栗粒のつぶつぶとした食感が野趣を感じさせるお菓子です。
【栗餡のこと】
先にも言いましたが白餡の風味と栗の風味がひとつに合わさってより深い味わいになっています。きんさんに使うときは蜜漬の栗蜜を使って軟らかくします。大体餡と栗の比率は七対三、特に栗を効かせて欲しいとおっしゃる場合は六対四くらいにします。
栗は専用の篩(ふるい)で通しますが、充分軟らかくなっていますので簡単に通りますし、口にした時は適度な触感が残る程度の目の粗さになっています。