京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

10月

  この月は稔り月、日本を象徴する農作物である米、私どもの仕事に欠くことのできない小豆、つくね芋、秋果の王・栗をはじめとする木の実など山の幸、野の幸が豊かに食卓や座辺を彩ってくれます。
「一里四方の物を食べよ」「地産地消」と言われますが、お菓子つくりにとってここ京都ほど恵まれた土地はありません。一里とは言えませんが、同じ京都府丹波地方特産の大納言小豆、つくね芋、栗、寒天、滋賀県では言うまでもなく、近江米、うるち米、餅米から良質の米の粉や餅粉がつくられます。
  さて、丹波栗「銀寄せ」という銘柄物もありますが、そのほかにも実入りが良く、ほっくりと甘い大粒のものがたくさんあります。新栗は9月末ごろから届き始めます。
 まずは皮むき、水から煮て、何度も渋を取り、水を替えて煮続け、細い竹串がすっと通るぐらいまで煮えたら蜜漬けです。栗と同量の砂糖を3回に分けていれながら、3日間で徐じょに蜜栗に仕上げていきます。素材がよく、手間暇惜しまず蜜漬けされた栗は香り良し、甘味良し、軟らかさ良し。
 今月はこの栗を使ったきんとん2種とこなしの伸し物・苫(とま)屋をお目に掛けます。
10月はもう薯蕷(じょうよ)の生地も使えますし、菓題としては他にもあります。光琳菊やいのこ餅、鶉(うずら)餅、奥山などいろいろな餅を使ったお菓子もできますが、味覚の点では矢張り、栗がハイライトだと思います。

栗きんとん【山里】(くりきんとん:やまざと)【つぶ餡、きんとん】

山里 栗だけを取り上げてみれば、日本各地に名物の栗があり、栗だけを使ったきんとんにも美味しいものがたくさんあります。それではなぜ京菓子で“栗きんとん”なのでしょうか。その答えは「地産地消」なのです。すなわち丹波大納言の粒餡、蜜漬の丹波栗、山陽道から送られてくる備中岡山の白小豆を使った白餡、この三者の味の融合が京菓子独特の栗きんとんの味をつくっているのです。
 京都で加工されて香り高く、あっさりした白餡になった白小豆、裏濾しした蜜漬栗を練り合わせた栗餡をそぼろに出し、たっぷり蜜を含んだ粒餡に付けて出来上がり。他所では真似できない贅沢なきんとんです。
 見たところ栗はどこに入ってるの、と言われる程シンプルなきんとんです。お茶の席では栗きんとんと言えばこれです。


栗きんとん【巣籠り】(くりきんとん:すごもり) 【つぶ餡、栗、きんとん】

巣籠り   栗のイガが割れて中の実が見えている姿を写したきんとんです。それを栗と呼ばず、鶴などおめでたい鳥になぞらえ、多産豊穣をあらわす銘にしてあるところが京菓子らしい点です。
 つぶ餡をきんとんで包み、蜜漬の栗が乗っています。栗と餡、きんとんと、三つの風味と食感が楽しめるお菓子です。
  一般の方にはこちらの方が人気があります。


苫屋(とまや) 【こなし、栗餡】

苫屋  「苫屋」とは、菅(すげ)・茅(かや)などを編んで屋根を葺いた粗末な小屋のこと。
見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ
と 定家が詠んだように、秋の物寂しさをいっそう引き立てる景物といえましょう。
  平たく伸したこなしで栗餡を巻き、決められた長さに伸し、屋根の形の三角形にかたちづくり、小口切りにして使います。
 こなしの色、中の餡を変えることで晩秋まで使えます。
 口に入れると、こなしのねっとりとした食感とやわらかい甘みの中から、栗の風味が広がり、栗粒のつぶつぶとした食感が野趣を感じさせるお菓子です。


生地のお話

【栗餡のこと】  先にも言いましたが白餡の風味と栗の風味がひとつに合わさってより深い味わいになっています。きんさんに使うときは蜜漬の栗蜜を使って軟らかくします。大体餡と栗の比率は七対三、特に栗を効かせて欲しいとおっしゃる場合は六対四くらいにします。
  栗は専用の篩(ふるい)で通しますが、充分軟らかくなっていますので簡単に通りますし、口にした時は適度な触感が残る程度の目の粗さになっています。