京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

8月

  一日は八朔(はっさく)、八日立秋、お盆、送り火、地蔵盆、大日如来さんとなかなか事の多い月でそれなりの御用もいただき忙しい月です。 それでも京の街全体が沸き立つような祭月の先月に比べれば落ち着いたご町内、家内単位の動きが多いように思われます。
 残暑もありますが、朝夕のふとした折に秋の気配を感じ、ホッとするのもこの月の終わるころ、喧(かまびす)しいくらいだった子らの声が静まるのも同じころ。
 引き続き葛や寒天を使ったお菓子が主流ですが、ういろうを伸展(のば)した生地を使った、折物、包物、透かし物もつくり始めます。今月はういろうの折物“朝顔”、ちょっと珍しい葛羊羹の沈め物“苔清水”、葛のお別れに“送り火”をお目にかけます。

朝顔(あさがお)【ういろう、白餡】

都の錦 米の粉と上白糖を練って蒸しあげた生地をういろう(ういろ)といいます。細工するのに適当な腰と粘りがありながら、喰い口がさっくりとしている点から、暑い時期にも用いられる生地です。色付けもしやすいので薄く伸展した生地を何層にもかさねて色目を楽しむこともできます。
  朝顔は餡を紅色に染め、白いういろうで折ってつくります。 


苔清水(こけしみず) 【錦玉、葛羊羹】

  錦玉をごく薄い緑色に染め、そこへ濃い目の緑色の葛羊羹を合わせます。
  錦玉を半冷ましにしたところに葛羊羹を流し込むと、重みで葛羊羹が沈み、グラデーションがかかったように2層に分かれます。わずかに緑がかった透明な錦玉の上層が、下層の半透明の葛羊羹の緑色を映すさまは、苔の緑色を映す山の岩清水を思わせます。錦玉と葛羊羹とでそれぞれ柔らかさも違い、ひとつの竿物のなかで微妙な食感の違いが楽しめるお菓子です。
 美しい層になるよう、錦玉の冷やし加減、葛羊羹のつめ加減など、少しだけ気を使う仕事ですが、なんとも涼しそうな流し物です。


送り火(おくりび) 【葛、漉し餡】

花の友  お馴染みの葛饅頭に赤く染めた白餡を一点付け加えただけのお菓子です。暗闇に浮かび上がる送り火を思っていただけたら。
 葛のお菓子、いわゆる葛饅頭は今月で終わりですが、来月はまた葛焼が出ます。
 今はもう6月ころから白餡を使って様々な意匠で色付けしたものや、餡の入らない葛焼も出ますが、ふた昔くらい前までは葛焼といえば漉し餡の入ったものを指し、晩夏から初秋のころにつくったもので、葛焼をつくることで私なぞは秋の訪れを感じたものです。私方の葛焼は銘を「旅衣」と申します。他にも百合根を散らした「初雁」も茶方のお菓子で出ます。