京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

7月

  京都では文月(七月)は祭月。1日の吉符入りに始まる祇園祭は、17日の山鉾巡行、神幸祭を頂点として、月末の神事済奉告祭(しんじすみほうこくさい)まで、厳かに、賑やかに執り行われます。祭にちなんだお菓子、「行者餅」、「稚児餅」、「滴り(したたり)」など古い伝えとともにつくり続けられています。暑い季節ですので、餅二種は味噌餡が使われており、滴りは黒糖を使った透明感のある琥珀糖(こはくとう)になっています。
  葛、錦玉(きんぎょく)、琥珀糖など、口すべりの良い透明感をもった生地のほかに、中花種(ちゅうかだね)と呼ばれる卵と小麦粉を原料にした焼き物の生地、小麦粉を水で溶いて焼いた麩の焼など、火通しの良い生地もよく使われます。これらの生地を使った代表的な製品は、前者が求肥(ぎゅうひ)を包んだ「鮎」、後者には先に挙げた「行者餅」などがあります。
  今月は錦玉を使った「夕立」、葛を使った「氷室」、道明寺を使った流し物「緑蔭」をお目にかけます。

夕立(ゆうだち)【漉し餡、錦玉】

都の錦 少し柔らかめの漉し餡をさいの目に切った錦玉で包んであります。 急な夕立の大きな雨粒が地面にはねる感じを捉えました。
  先月ご紹介した「紫陽花」など、錦玉をまぶしたお菓子にもいろいろありますが、この「夕立」の形が最も素朴で古典的なものです。きらきらと光を反射する錦玉が、餡の暗色とあいまって微妙な陰影をみせ、シンプルでありながらたいへん美しいお菓子です。  


氷室(ひむろ) 【白餡、羊羹、葛】

  氷室とは、冬季の氷を夏まで貯蔵しておく室(むろ)のことです。平安時代、旧暦6月1日に氷室から切り出し宮中に献上された氷を臣下に賜った「氷室の節会(せちえ)」にちなんだ命名で、この日氷を食べると夏負けしないといわれていました。
  白餡の上に三角に切った羊羹を乗せた葛饅頭です。紅色の羊羹が氷を表しています。裏千家八代一燈(いっとう)宗室(1719~71)の好みと伝えられています。
 葛の透明感が目にも涼しく、「氷室」という銘自体も涼しげな風情をかもし出します。茶の湯では、目からも耳からも夏の涼を演出します。暑い季節ならではの茶席の楽しみのひとつです。


緑蔭(りょくいん) 【道明寺粉、小豆、錦玉】

花の友  道明寺粉(糒:ほしい) を水で戻し、緑色に染めた錦玉と混ぜ羊羹舟に流します。暑中、木々の緑を映す水の相を写しました。
 ほんのりと染まった緑の錦玉に、白い道明寺と大粒の小豆が、いかにも水面に映った木漏れ日を思わせます。水辺の木陰の爽涼感が伝わってくるお菓子です。


原料のお話

 夏の羊羹に使われる錦玉は寒天を煮溶かし、砂糖を加えたものを色づけしたり、他の材料(餡・道明寺・葛等)を加えて型に流したものです。透明無着色のものを錦玉と呼び、茶色に色づけしたものは琥珀糖と名前が変わったり、道明寺の入ったものは道明寺羹と主役の座を奪われることもあります。
 寒天はテングサ、オニクサ、ヒラクサ、オゴノリ等の海草を原料として、煮沸、ろ過、冷却凍結、脱水して作られます。トコロテンとして食用にされていたのは平安時代からでしたが、干物として製品化され、お菓子に利用されるようになったのは1724年(万治元年)四代将軍家綱の時代に京都伏見の美濃屋太郎左衛門が考案して以降のことになります。
 海草から作られる原料として、最近では「アガー」の名称で市販されているカラギーナンがあります。寒天のように常温で安定した凝固力を持ちながら、ゼラチンのように柔らかく滑らかな口当たりで、また違った食感のお菓子がつくられています。