五月の代表的なきんとんです。葉の緑、花の赤をそぼろに色づけしてつくります。庭木としてもなじんだ花ですが、菓銘に岩根とつけることによって、山肌の露岩に貼りつくように孤高の姿を見せるつつじの凛然とした美しさを思わせるお菓子です。
唐衣 きつつなれにし つましあれば
はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
在原業平
から取った歌銘で、薄くのばしたういろう生地をかきつばたの花に似せて折りたたんだもので、歯切れの良いういろうと薄紫色が初夏の水面を渡る風の爽やかさを感じさせます。
麦の刈り入れや田植え等、農家の繁忙期に食事代わりに田や畑で食べた餅菓子で、元々はごく大ぶりなものでした。茶の席で用いるために普通の大きさに戻してつくりますが、野趣のあるお菓子です。ちなみに麦代とは餅代を麦で支払ったところからきています。
【固いの、やわらかいの】
大まかに分けてみましたが、生地各々に固さの異なる餡を使います。生地によって含水率が違い、餡を包んでから焼いたり蒸したりの工程を経るものもあり、それらを勘案して餡を炊きわけたり、まったく別に水あめを加えて保水性の高い餡を炊いたりします。
例えば薯蕷には上用餡と呼ばれる柔らかい餡が必要ですし、ういろうには固めの餡を用意しておきます。上用餡は包んでから高温の蒸気で蒸しますが、ういろうは長時間蒸す工程(約1時間)を経てできる生地ですので、固い餡でないと後でベタベタになりやすいのです。一般の方には気づかれにくい点ですが、お菓子づくりの中で大事なことの一つです。