京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

5月

 花の季節が過ぎ、木蓮、山吹、藤、各々の彩りを見た後で、新緑の季節を迎えます。周辺の山々も緑のだんだら染めから、徐々に万緑の緑へと装いを濃くしていきます。「分け入っても分け入っても青い山」でしたか誰かの句にありましたが、皐月はそんな鮮やかな月です。空に威勢良く泳ぐ鯉のぼり、山辺にはつつじ、水辺には菖蒲が点景となり、お節句の粽や柏餅、お子達の健やかな成長を祈り、いよいよ近づく農繁期を前に、作物が無事根付き稔るように願いを込めて供え、いただきます。
 皐月のお菓子は、きんとんは岩根のつつじ、こなしで菖蒲(尚武)太刀、ういろうで唐衣、初松魚(勝魚)などがあります。上用も大体今月で最後、木の芽上用、卯の花は緑と白のコンビで、きんとん、ういろう、こなしと各々につくり分けられます。

岩根のつつじ(いわねのつつじ) 【きんとん】

都の錦  五月の代表的なきんとんです。葉の緑、花の赤をそぼろに色づけしてつくります。庭木としてもなじんだ花ですが、菓銘に岩根とつけることによって、山肌の露岩に貼りつくように孤高の姿を見せるつつじの凛然とした美しさを思わせるお菓子です。


唐衣(からころも) 【ういろう】

衣 つつなれにし ましあれば
るばるきぬる をしぞ思ふ
在原業平 から取った歌銘で、薄くのばしたういろう生地をかきつばたの花に似せて折りたたんだもので、歯切れの良いういろうと薄紫色が初夏の水面を渡る風の爽やかさを感じさせます。


麦代餅(むぎてもち) 【雪餅】

花の友  麦の刈り入れや田植え等、農家の繁忙期に食事代わりに田や畑で食べた餅菓子で、元々はごく大ぶりなものでした。茶の席で用いるために普通の大きさに戻してつくりますが、野趣のあるお菓子です。ちなみに麦代とは餅代を麦で支払ったところからきています。


生地のお話

【固いの、やわらかいの】

  • 米の粉(もち米、うるち米)を素材にした生地─雪餅、ういろう
  • 澱粉を素材にした生地─葛、蕨
  • 餡を主な素材にした生地─村雨、こなし
  • その他─薯蕷

 大まかに分けてみましたが、生地各々に固さの異なる餡を使います。生地によって含水率が違い、餡を包んでから焼いたり蒸したりの工程を経るものもあり、それらを勘案して餡を炊きわけたり、まったく別に水あめを加えて保水性の高い餡を炊いたりします。
 例えば薯蕷には上用餡と呼ばれる柔らかい餡が必要ですし、ういろうには固めの餡を用意しておきます。上用餡は包んでから高温の蒸気で蒸しますが、ういろうは長時間蒸す工程(約1時間)を経てできる生地ですので、固い餡でないと後でベタベタになりやすいのです。一般の方には気づかれにくい点ですが、お菓子づくりの中で大事なことの一つです。