京都民報
なるほど京都

京の菓子暦

茶の湯と京文化に磨かれ、育まれた京の和菓子。四季折々の京の和菓子を紹介します。

甘楽花子 坤庵

4月

 各月の呼び方は陰暦に基づいていますので、太陽暦の現代からすると1ヵ月ほど遅い時候にあたります。今月は卯月、卯の花の咲く頃というところからつけられた名前です。
 暖冬とやらで花の咲くのも早そうなこの春、花と言えば平安時代以前は梅のことだったそうですが、現代では桜のこと。いずれにしても日本人の感性を響かせる何ものかで、歌に詠まれ、描かれ、身の周りの物どもに意匠として用いられてきた親しい存在です。
 お菓子の世界も花・花・花、すべての生地を使って、あらゆる角度から捉えた花の相を彩・形・味に写しかえてゆきます。
 生地にも季節によって使いやすい、難いということがあります。例えば、寒い頃に透明感のある葛、琥珀、ういろう等は使いませんし、真夏に薯蕷やこなしのような口当たりのもったりした生地を使うことはないのです。 今月、来月くらいはそのような制約もなく、様々な意匠を試すことの出来る、私どもお菓子屋にとって楽しい季節なのです。
 卯月、今月は桜・柳・蝶を取り上げてみました。きんとんで「桜と柳」、こなしで「桜」、ういろうで「蝶」をつくってみました。銘だけ挙げますと、他にも次のようなお菓子があります。どんなお菓子か想像してみてください。春風、花霞、西行桜、花筏、花吹雪、吉野山、深山桜…

都の錦(みやこのにしき) 【きんとん、白餡、粒餡】

都の錦  どなたも一度は目にされたことのある「きんとん」です。桜のピンク、若柳の緑、生生発展の気を表現するとともに都を美しく彩る自然の相を小さなきんとんに盛り込んだ定番のお菓子です。
 ちなみに都をどりの総踊りの際にもこの意匠の団扇が使われています。


ひとひら 【こなし、漉し餡】

 京菓子の特色のひとつに、ものの形をリアルには出さないことがあります。ひとひら(1枚)の桜の花びらをこなしでざっくりと表現したお菓子です。
 ふと見ただけでは「何じゃろ」と思うような形ですが、銘を聞いて納得、得心。店頭でも人気の一品です。


花の友(はなのとも) 【ういろう、白餡】

花の友  薄く伸したういろうの生地を丸く抜いて折りたたんだお菓子で、折り方を変えることで銀杏にもなり、法の袖になり、朝顔になり、折紙を折るような楽しい技法です。
 生地が薄く透けますので、中の餡を、漉し餡、粒餡、白餡を着色して、と変えることで襲の色目を楽しむこともできます。尚、少々手間はかかりますが、ういろう自体を何色かに染め分けて、襲たり、合わせたりして楽しむこともできます。



生地のお話

【ういろう】
 ういろうと言いますと、名古屋名物の棹物や、水無月を思われる方がほとんどです。また、包んだお菓子を見て、「求肥ですか」とおっしゃる方も多くあります。
 求肥はまったく別の生地ですが、棹物や水無月は材料の配合が異なるだけで、米の粉、上白糖、水から出来る、同じ「ういろう」です。混ぜ合わせた米の粉と上白糖を水で伸ばし、火にかけて練り上げ、蒸しにかけてつくります。どちらかというと扱い難い生地で、生地が温かい間しか作業できませんので、手早い仕事が要求されます。五月の「からごろも」もこの生地でつくります。