藪椿
藪椿
数えきれないほどの品種が作り出され、銘椿(ちん)古木も多いけれど、やはり薮椿の飾り気のない姿は華やかさとは無縁ですが実に好もしい花です。
銀閣寺から南へ山裾を辿る山道は「椿ヶ峰」と称されるのにふさわしく、うっ蒼と茂る樹木がほの暗さをつくる中、薮椿の大木がそこここにあって、真紅の花を散り敷いています。ふと北原白秋の「あかあかと狂ひいでぬる薮椿」が重なります。芭蕉の「やぶ椿かどは葎(むぐら)のわかばかな」の句そのままの世界が現出します。
疏水から土産物店の並ぶ坂道を登り切って銀閣寺の総門をくぐると、石垣にさらに竹垣がまわされ、藪椿の生垣で方形に区切られた空間へ足を踏み入れます。屏風のようにそびえる薮椿の高刈込みの生垣には、敷きつめられた白砂からはねかえる光をうけて、椿の花の赤い色が浮かび上がります。江戸時代の作庭といわれていますが、歩を進めるほどに心が鎮まってきます。